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共通歴2220年、家庭用・アーケード用共にダイブ型と呼ばれるネットゲーム システム『DMMORPG』が一般的になり数十年。
その技術は様々な分野に応用されて行くが、特に発展著しいゲーム業界においては、ハード・ソフト共に各社が競い合いあった。
……その結果、ついに、その上を行く、
ーーーーーFDMMORPG(フルダイブ型マルチオンラインシステム)ーーーー
と言う物が誕生する事になる……
これは、現在では当たり前になったている、中枢神経に様々な電気信号を送る為にある『エントリーアタッチメント』と呼ばれる、首の頸の部分に体内移植された、電子プラグへ直接データを送り込む事により、視神経へ映像を送るのと同時に、振動・風・触覚などを刺激する、「ガ◯ダムのコクピット」の様なコミューンと呼ばれる機械の中に入り、手足等への補助装置を取り付ける事で、本当に自分がその場所にいるような、疑似体験を味わう事が出来る、と言う画期的なシステムだ。
唯一再現出来ていないのは味覚位で、後の視覚・聴覚・触覚・嗅覚は、殆ど完璧に再現されている凄い機械なんだ。
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地続きの巨大なアルヴス大陸にあって、周囲を水堀に囲まれ、陸の孤島と呼ばれる【和国】と言う国があった。
その国では、今まさに、そこに住まう人族達を蹂躙せんと、猫の体の特徴を持つ【ケットシー】一族と、狼の体の特徴を持つ【ウエアーウルフ】の一族が、その驚異的な身体能力を遺憾無く発揮し、暴威を奮おうとしていた。
だが……戦端開かれたばかりの戦場にあって、敵の方向とは真逆に走る一体のウエアーウルフの兵士がいた。
人には到底出しえないスピードで走る、彼の口からは低い唸り声が漏れる。
彼が知り得た情報と、自らの王にこの情報を伝えれば、この後の有利だった戦況がどうなるか、の予想が見えてしまうが故の、無念の唸りだ。
「はぁ、はぁ…アッシェラート様に火急の報せがございますっ‼︎」
本陣の天幕前には、屈強なウエアーウルフが立っており、密偵の剣幕に驚きながらも問い掛けてくる。「おいおい、どうしたんだ⁈そんなに慌てて駆け込んで来るなんて、一体何があった?」
彼は、答えるのも焦れったいと思いながらも、自分は前線の密偵であり、敵軍内に強大な力を持つであろう召喚士を確認したこと…そして、それを伝えに来た、と素早く説明した。
「…!成る程、すぐに確認しよう。」
そう言うと、屈強な門番は、急ぎ天幕内に居る者達へ確認を入れる。
確認を終えると、門番は入り口の天幕を持ち上げ、即座に密偵兵を招き入れる。
ウエアーウルフ族の密偵の男は、自分が見聞きした内容を詳細に述べた。
ー暫しの沈黙が流れるー
「……すぐにキャットシーの王 ペルシアを喚び戻すのだ!緊急事態だと言え!」
王の怒声に天幕内は緊張に包まれ、すぐに行動が開始される。
…
…………
「っはぁ…はぁっ、はぁっ」
全身をくねらせ、四足歩行で平野を疾走する軽装鎧を見に纏った、いわゆる猫人間のようなキャットシー族の伝令兵は大急ぎで前線にいるであろう、自らの国王を探す。
軽装を好む一族の軍内では珍しい、重装鎧を纏った、一際目立つ集団を発見し、その中に目当ての人物を見つけた彼は、声を張り上げながら近づいた。
「伝令!伝令!」
「ペルシア様!ワーウルフの王 アッシェラート様が至急帰還するようにとの事です!」
「 …なんだと?ここからが良い所であろう?何故であるか⁉︎」
「は、はっ!確かにその通りではございますが、最優先との事でありますので……」少し声を抑えて続ける「何でも人族の軍内に召喚士を見つけた、との一報が入ったとの事でございます。」
「⁉︎」
今まさに、戦端が開かれたばかりの最前線を指し、不服そうに顔を顰めていた主人は、兵士の発言に目を見開いた。
元々、大きいペルシアの眼は、見開いた事により、かなりの大きさになっている。
そんな様子を見て、狼狽えるキャットシーの伝令兵はペルシアの発言を待つ事しかできない。
「……仕方あるまいな。では、一旦本陣へ戻るといたそうか。」
「ははっ、畏まりました。お供致します!」
「お前たちは、前線を維持しつつ、いつでも退却出来るように隊を整えておくのだ、よいな!」
「ははっ!」
自分の側近である、重装兵達の威勢の良い返事を聞くと、二人は風に乗る速さで本陣へと帰還して行くのであった。
…
本陣へと至ったキャットシーの王は、天幕前にいる門番に軽く手を上げた。
すぐさま、門番は天幕を開けペルシアとお供を通す。
「おぉ早いな!さすがはペルシア、もう戻って来てくれたか‼︎」
「早いな!ではないわ。こんな緊急時にのんびりと戻れるわけがないであろう。」
不服そうにするペルシアへ、詫びの仕草をしながらも真面目な声で続けるウエアーウルフの王アッシェラート。
「それがな、ペルシアよ…我が放っていた斥候が、彼の軍内に召喚士を見つけたと言うのだ」
「それは我が使いからも聞いたが、そんな事は事前に聞いておらんぞ?大体、何故、人族如き軍にその様な者が紛れておるのだ…お主の所の斥候は何を見ていたのであるか⁉︎」
苛立ち、捲し立ててくるペルシアに、アッシェラートは気圧される事無く答える。
「知るか、儂が聞きたいくらいじゃ!それよりどうする?このまま戦いを続けるつもりか?…のぅペルシア」言葉の最後は低く唸るような声で問い掛けるアッシェラート。
「もちろん撤退であるな。その召喚士の力も分からんのだ、一もニもあるまい。」
当然と言うように言い放つペルシア。
「そうだな、儂もそう思うておった所じゃ、前線は維持しつつ早急に撤退の準備を始めよう!」
「前線には我輩の配下の方が多いのだから、殿は其方に任せるぞ」
お互いに目線を交わしながら、少しの沈黙を置き、アッシェラートが「ちっ」と一言小さく答え、同意すると撤退が決定された。
両軍の首領の命により、人族を襲っていた軍勢は瞬く間に退却していくのであった…
ただし、殿を務めたウエアーウルフの精鋭達には、小さく無い損害が出る事となった。
一方、その様子を人族の城壁から見つめる人影があった。
「⁉︎…おぉ、亜人共が引いて行くぞ!奴がやったくれたか!」
「将軍、追撃致しますか?」
「……いや、よそう。引いてくれると言うのであれば、無理に追わず、味方の救護を優先させよ!」
「はっ!」
ーーー 人族は一時の安堵を得たーーー