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ほとばしる閃光

 04


 大気そのものが燃えて、プラズマ化していく。もしミョルニル隊が外の空気を吸うことができたなら、強烈なオゾン臭がしていたことだろう。エクスカリバーの熱量はそれほどにすさまじかったのだ。

 アリオト伯国軍はもはやなりふり構っていられない状態にあった。ベネトナーシュ王立軍は先だってのザハン渓谷での戦いに勝利して以降、自信をつけ、指揮を高め各地の戦場で勢いづいていたからだ。 

 そして畳みかけるように、王立軍は戦争を早期に集結させるため、異世界の軍隊に助力を願うつもりだという情報が入った。伯国軍の将兵。特にザハン渓谷の生き残りたちは戦慄した。

 (戦場に突如現れたあの鉄の龍が敵になる?

 轟音を響かせ、凄まじい速さで空を疾駆する鉄の龍と戦わなければならない?)

 それだけはなんとしても阻止しなければならない。鉄の龍云々に関しては半信半疑だった伯国軍上層部も、王立軍が強力な味方を得て自分たちに襲い掛かってくるのはまずいということは理解していた。

 そんなわけで、ザハン渓谷から海上に出て光の幕、異世界への扉である時空門へ向かう王立軍を叩くべく網を張ったのだ。が、王立軍の抵抗は激しく、旗艦である飛行船が時空門を超えることを許してしまう。やむなく時空門を超えてこちらまで追跡してきたが、今度は複数の鉄の龍に取り囲まれてしまった。 

 (こうなってはやむを得ない。どんなことをしても王立軍と異世界の軍との接触を阻止せねばならない)

 伯国軍の船長は強硬な兵たちからの突き上げに抗しきれず、エクスカリバーの使用許可を出したのだった。もし異世界の軍人や民を傷つけることがあれば、異世界の軍が敵になってしまうと想像する神経は、彼らには残っていなかった。ひっ迫する戦況の中、勝てば官軍と思い込んでいた、いや、思い込もうとしていた彼らには、自分たちの行動の結果に想像力を働かせることなどとっくにできなくなっている。

 ところが、エクスカリバーの準備ができたちょうどその時、想定外の事態が起こる。鉄の龍の1頭が急に襲い掛かってきて、見たこともないような魔法で攻撃をかけてきたのだ。衝撃でエクスカリバーが固定された台座から外れ、狙いを定めていた技術兵が撃たれて戦死し、エクスカリバーの筒に倒れこんだ。このため、敵の船に狙いを定めていたはずのレーザーは不安定に明後日の方向を薙ぎ払う形になってしまった。

 

 幸いにしてミョルニル隊も”でかぶつ”もレーザーの射線には入らなかったが、陸地の方はそうもいかない。斜めに薙ぎ払われた光の剣は、海沿いにあるリゾートマンションを直撃する。最上階から逆に数えて3階分がごっそり斜めに切り裂かれ、地滑りよろしく滑落していく。数10トンのコンクリートと鉄の塊は、マンションの庭を挟んで20メートルほど横にあったコンビニを押しつぶし、がれきの山に変えた。

 『な...。ばかな...!』

 虫本はそれだけのどから絞り出すので精いっぱいだった。その破壊力におののいたこともそうだが、警告もなしに突然あんな威力をもつ武器を使用する人間の正気を疑ったのだ。戦慄はすぐに激しい怒りに変わった。あれでどれだけの人が死んだのか?けじめはつけさせてやる!

 『日本国に対する敵対行動と認定!全機、セイバーに続け!ちび公を攻撃せよ!』

 虫本の命令を合図に、ミョルニル隊は”ちび公”に群がり、ガトリング砲と対空ミサイルのシャワーを浴びせていく。ミサイルの噴煙が、20ミリの曳光弾の光が交錯し、スズメバチの群れのごとく容赦のないつるべ打ちとなって降り注ぐ。木造船に過ぎない”ちび公”からすれば、それは抵抗さえ許されない無慈悲な集団リンチだった。船のあちこちで火の手が上がり、燃える帆柱が倒壊して船員や兵たちを押しつぶし、20ミリの直撃を受けたものは原型をとどめない、血みどろのハンバーグの種のような塊になり果てる。

 サイドワインダーの直撃でついに竜骨を砕かれた”ちび公”は浮力を維持することもできず、真っ二つになって日向灘へと落下していった。

 「勝ったのか?」

 『一応な。だが大変なのはこれからだぜ。あんたは特にね』

 自分のつぶやきに親切に応じてくれた及川の言葉に、潮崎は胃が急速に収縮していくような感覚を覚えたのだった。


 新田原基地に誘導された”でかぶつ”は、ヘリポートにふわりと着地した。周囲はたちまち64式小銃で武装した警衛に取り囲まれる。まだ”でかぶつ”が味方と決まったわけではないのだ。しばらくすると、船体横の扉が開き、手すり付きの階段が降ろされてくる。下りてきたのは、すっきりしたデザインだがノーブルな印象の白いドレスをまとった金髪美女だった。後ろには、シェイクスピアのオペラから飛び出してきたような、中世かルネサンス期の欧州風の装いの者たちを従えている。

 「自分は、新田原基地司令、増子一等空佐であります。よくおいでくださいました!」

 増子一佐はとりあえず日本語で名乗りを上げ、敬礼する。言葉が通じる保証がなくとも、まずは話しかけてみること。これが彼の信条だ。

 金髪美女は柔らかい笑みを浮かべると、スカートを両手で軽くつまみ上げ、お辞儀をする。その動作のあまりの優雅さに、増子はつい見惚れてしまう。警衛たちでさえ、その美しさ、優雅さに見入っている。 

 彼女は従者らしい人間に紙とペンを用意させると、なにごとかしたためていく。文面を描き終えた紙を手渡された増子は困惑した。アルファベットの組み合わせでなにかを表現する言語には違いない。が、英語とも、スペイン語やドイツ語ともちがい、さっぱり内容がわからないのだ。

 が、金髪美女が何かの詠唱を始めると、増子は唐突に相手の意図を理解した。どういう原理か見当もつかないが、彼らの言語の下に、日本語の表記が炙り出しのように浮きあがっていくのだ。それはこう読めた

 ”閣下におかれましてはごきげんよう。 

 わたくしはベネトナーシュ王国第一王女、ルナティシア・フレイヤ・フェルメールと申します。

 お会いできて光栄です。

 また、先ほどは助けていただき、ありがとうございました。

 本日こちらにうかがったのは、貴国との国交を結ぶため。また、窮地にある我が国を救うため、貴国にご助力をお願いするためです。”

 文面を呼んだ増子は内心頭を抱えた。話が大きすぎて、自分の権限を越えていたのだ。

 かくして、日本と異世界のファーストコンタクトは波乱に満ちたものとなった。いや、これからさらに波乱に満ちると言うべきか


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