現役高校生が抱える闇について
私は登校拒否をした。
知らず知らずのうちに積み重なった重しは毎朝吐いてしまうほどまで膨らみあがった。そしてそれは今にも私を押し潰そうとしていた。
やっと手に入れた居場所なのに。
私がどんな想いで足掻いて、努力をして、周りに溶け込もうとしたかお前たちにわかるか。
死に物狂いで手に入れたその居場所を一瞬で崩落させたのは向こうだったのか私だったのかいまとなっては定かではない。
「レギュラーだからって調子乗ってんなよ、カス」
虫けらを見るかのごとく放った言葉は鉛の塊のような重さと同時に針のような鋭さをもって私の心に重く刺さった。
これは嫉妬か。やっかみか。この手の類で一方的に言われることはよくある。いい迷惑だ。
他者を寄せ付けない圧倒的な力が欲しい。圧倒的な強さが欲しい。それさえあれば私は自由に生きられる。そう思い、高校も強豪校を選んだ。
強豪校はそんな下らないことはないと思っていた。しかし、合奏力があるということは必ずしも個人技のレベルが高い、というわけではないということを痛いほど身をもって知った。粒ぞろいのメンバーがたくさんいると思っていた。
私は夢を見すぎていたようだった。
なんだ、こんなレベルか。
それが入部して最初の感想だった。調子に乗っていたわけではない。先輩をなめてかかってそう思ったわけではない。素直にそう思った。
中に入ってみて分かることが多くあった。
決して合奏力も高くないことだ。
指揮者の要求にもすぐ対応できるわけではなし、合奏中に吹きながら音程を寄せていく技術もない(でも最初から合わせる技術もない)。
でも自分で選んだことだからやりきろうと思っていた。
昔何かの本で読んだことがある。
『居場所は与えられるものではなく、自分で見つけて自分で勝ち得るもの』
だと。
昔から負けず嫌いだった私は幼いながらに確固たる決心のもと、走り続けた。
***
高校生活も折り返し地点に差し掛かった頃、思わぬ横槍が飛んできた。それは大胆に、そして確実に私を仕留めようとした意思が見える横槍だった。
なにか私の態度が気に入らなっかたのか、はたまた私の性格が気に入らなかったのか。別に波風立てないように無難に過ごしていたはずだと思っていたのに。こう見えても先輩とはほかの人よりは近い距離でそこそこにかわいがってもらえていた。何がそんなに気に入らなかったのか今でもわからない。
そこそこにうまく吹けてそれを鼻にかけているわけでもなかったのに。こうなってくるとただの嫉妬だと思う。ああ、醜い。
周りに助けを求めようとも思った。しかしそれは叶わなかった。周りに溶け込もうと努力を重ねていたつもりだったが、全く心の支えとなるような存在はいなかったのだった。
中学時代からの親友はいるが、お互い夏のコンクール時期になると忙しさゆえに連絡を取ることすらままならなかった。
苦しかった。
ただただ苦しかったとしか形容できない。
ものの喩えとして「死にそうなくらい」とつけることがあるが、本当にそれだった。
確かに人はそんなに簡単に死なない。ああ、確かにそうだ。
でも時として人はストレスにやられることだってある。まさに今の私の状況のように。
自分ではどうしようもなくて。こうなるといくら鈍感な私でも周りになんて思われているのだろうと気になる。それがストレスで仕方なかった。人なんてどうでもいい。必要以上に仲良くなる必要もないし、必要以上に心の距離を縮めることもない。言うなれば私の人間関係は浅く狭くだった。心を許している友達なんて一人しかいない。でもそれがつらかった。苦しかった。
この学校の部活という狭いコミュニティで生き延びることが最優先だった。しかしそのコミュニティでうまくやれない自分への苛立ちや仲間と言える人がいないもどかしさがたまらなく嫌だった。
そして明くる日、私は人生で初めて登校拒否をした。
先輩にかわいがられていた手前、私の身を案じるメールは何件も来た。しかし、私はそれにこたえる心の体力もなく、ただ一人、自室のベッドでうなだれていた。
「あんた、何があったの。ただ学校行きたくない、って言われてもお母さん心配なんだけど」
「別に」
「クラス?部活?どっちよ」
「………」
「何も言いたくない気持ちもわかるけど、事と次第によってはお母さん出ていくからね」
「別に何にもないよ」
「別になんもなくないでしょ!」
「いいから出て行って」
こうして私の登校拒否は3か月続いた。
事の発端は、明確な嫌がらせがあったわけではない。私が自意識過剰なだけだ。ましてやいじめの類ではない。夏のコンクールは終わったし、あとは冬のアンコン(アンサンブルコンテスト)に向けてだけだし。私がいなくても部活は大丈夫だ。先輩は引退したし。
勝手に自分で言い訳を重ね、どんどん学校へ行きづらくなっていった。
毎日数人から送られてくるメールにはさすがに罪悪感を覚えた。申し訳ない。でもまだ応えられそうにない。
虫けらを見るかのごとく放たれた嫉妬は鉛の塊のような重さと同時に針のような鋭さをもって私の心に重く刺さった。あの言葉を思い出しただけで吐き戻してしまい、何も喉を通さなくなってしまった。ここで気づいたことは、吐くのは案外体力が必要だということ。何も食べられない私にとって何もない、ただの胃液を吐き続けるのは、回復できない体力を無駄に消耗するだけで、ただつらいだけだった。
本当にしんどい。
このまま死んでしまえたらどんなに楽だろうか。
このまま私なんてこの世からいなくなればいいんじゃないか。
いっそ死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたいと願いながら生きる人生なんて糞くらえ。
完全にうつ状態だった。
死にたいと願う日々をぼうっと何もせずに過ごす。
何度も部屋のベランダから飛び降りようとした。
包丁を持ち出して親と大喧嘩になったこともあった。
でも死ねなかった。
こんな生き地獄、抜け出したい。
そう思っても抜け出せないのが今の私。
心が前に向かない。やる気が起きない。何をしても。
精神科を受診しようとも考えた。でもいけなかった。
受診してしまったら自分の精神状態がおかしいということを認めなければいけないのが何よりも怖かった。まだ自分はふつうだ。ふつうでありたい。私はおかしくなんてない。そう思い続けなければ本当に私が私の中で死んでしまうような気がしていた。
どうしようもなく過ぎ去っていく日々。とうとう私は家からも出られなくなった。
過去の栄光にすがりつく毎日。今の私は家にひきこもり、何もできない。
死にたい。
読んでくださり、ありがとうございました。
この話は私の実体験を基にして書きました。
初めてこんなに暗い内容を書きましたが、支離滅裂で読みづらい部分も多かったと存じます。
本当に最後まで読んでくださり、ありがとうございました。