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異世界からのお誘い

異世界:この世界とは違う世界。 古くから創作の中で広く扱われており、現代のサブカルチャーにおけるジャンルの一つでもある


「私と異世界を救ってください!」


「よろきょんで!」


………………………………………………。


うんんんんんんんん?????


優は顔を上げず、目を瞑り、表情には苦笑いによるニヤケ顔を浮かべながら、お辞儀をした状態でそのまま硬直した。


冷や汗が止まらない。


優は衝撃的な、若林の思っていた方と違う方の告白に戸惑いを隠せなかった。いや、告白と勧誘・・を同時にしてきた。どちらかと言うと勧誘なのだろうが、優にとって、彼女の言動から察される事実の告白はショックの大きいものだったため、告白と言えなくもないのかもしれない。


いや、待て。聞き間違いかも知れない。こんな子がそんな冗談言うはずが無い。今日の様子見てただろ俺。そんな奴に見えるか?いや見えない。うんうん。絶対に無い絶対に無い。


「若林さん……その……今のやつ、もう一回言ってくれない?」


「え?もう一回ですか?ちょっとこっちで言うのは何かと恥ずかしいんですが……。うっ、うん。神木 優さん、私と一緒に異世界を救いましょう!」


若林は咳払いをし終えると、また、今度は元気ハツラツな様子でそう言った。


今、優の顔は他者から見られたら恥ずかしいほど顎が落ち、今の出来事に唖然としているだろう。優の落胆度は酷いものであったのだ。


「本当にいいのね?それ本当ですよね!?やったー!!やっとこんな世界から帰れるぅ!」


しかし、そんな優をよそに、若林は要求を呑んでもらえたことに、優がこれまでに見たことがないくらいに喜んでいる。今までの若林の態度とは大違いだ。あんなにお淑やかだった、みんなが認めるほどの美少女がこんなに元気だったとは。優はそんな若林の反応にも唖然としながら、ついさっきの質問の意味を考える。


は?異世界?異世界ってアレだろ?現実にはない空想のやつだろ?二次元の。え?何言ってんだこの人?まさかこれがいわゆる厨二病ってやつなのか?自分だけの妄想だけじゃ限界を感じて俺にも協力ってか?待て待て。俺はそんな痛いごっこ遊びに付き合う気はねぇぞ!?早く断らねば!


「あ、あの────」


「あ、私の実名ですか?私の名前はルミネ・シャルティーナ。ルミネでいいですよ!はぁーーっ!これで目的達成だわ!」


「いや、そうじゃなくて────」


「あ、異世界への行き方ですか?大丈夫です!このペンダントの石に魔素(マナ)を加えれば(イライラ)扉が開きますので(イライラ)そちらを潜れば転移完了!「ちっ、ちっ、ちっ」いやーホント速攻でオッケーしてくれるとは「イライラするぅ。」思いませんでしたよ~。てか今さっきから眉を寄せたり舌打ちしたり『イライラ』とか言ったり…どうしたんですか?頭痛いんですか?病院行きます?」


プッチーン


「人の話を少しは聞きやがれぇー!」


「ひゃう!」


若林は子猫が怖がるかのように怯えながら小さい声の悲鳴を上げた。しかし、優の怒りはまだ抑えられない。


「異世界だぁ?石だぁ?魔素だぁ?そんな厨二の用語なんか知らんわ!なんだ!?昔の俺の噂を聞いたってのか!?それともクラスでおとなしくしている俺を見つけて『あ、こいつなら乗ってくれるかもしれない』なんて思ったのか!?んな訳ねぇだろ!人を見た目で判断するのもいい加減にしやがれ!そんなの他所でやりやがれ!そして俺のここに来るまでのドキドキを返しやがれええええええぇ!」


ゼェゼェ


優は息が切れたものの言いたいことを言い終えたことに満足した。落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしようとした。しかし、


「あ、あの……質問…ですぅ……。」


「あぁ?なんだぁ!?」


「ひうっ。…そ、その…ドキドキしてたって異世界に早く行きたいなーっていう…ドキドキじゃないんです…か?」


「……はぁ。」


あまりの若林の天然なのかアホなのか分からない両手の人差し指を顔の前でくっ付けて、こねくり回すそんな可愛い動作をしながらしてきたその純粋な質問に頭を抱えさせられる。


ここまで、アホな人物と出会ったのは生まれて初めてである。何故そこでいきなり異世界が入ってくるのか。そこまで俺はオタクに観えたのだろうか。それか厨二か。確かに髪は立ってるし、口元に傷入ってるし、猫目だけれども。(最後は関係無いが)しかし、そう観られたとしても、どんなにその道を極める者であったとしても、普通はこの結末では無く、優も期待していた高校生・・・の春(・・)を期待するだろう。


故に、こいつの頭はもういけない所までイっているという事だ。


ここ偏差値はまぁまぁの学校のはずだぞ?何でこんな奴が編入できたんだ?


優は学校を間違えたなーと後悔する。何故生徒より学校を疑うかって?それはこの学校の校長かなりの変態なのである。という噂を聞いたことがある。スタイルがいい生徒をバンバン編入させていると聞いているが、ここまでとは…。そんなことを思っていると、若林が


「あっ。」


と言うと、納得したと言わんばかりに左手の掌に右手の拳を縦に打ち付けて言い出した。


「分かりました分かりました!まだ信じてないんですね?そりゃそうですもんねぇ。ここの世界の人がネビュラ(・・・・)のことを知っているはずがないですもんね。仕方ありませんねー。私が見せて────って痛い痛い痛い!頭が!頭が割れますぅ!」


「今の俺からのお前に対する印象からしてお前の言うこと何もかもが信じられねぇが、お前のような奴を放ったらかして社会に迷惑をかけるわけにもいかねぇし、俺の慈悲でお前を真っ当な人間の頭に戻してやる。なんか俺に見せたいんだったら、見てやるから調子に乗らずに早くしろ。」


冷たく言いながら優は若林の頭をぐりぐりと中指を立てながら挟む。若林は自力で『コメカミグリグリ』というその拷問から抜け出すと、頭を抑えながら八メートルほど離れた。


「もう!せっかちなんですからぁ!」


大きく開いたつぶらな瞳の目尻に涙を輝かせながら、若林はこちらを振り向く。


本っ当にこいつムカつくなぁ。


優は若林の治らないこの言動に少し頭に来ていた。なんかぶりっ子感がが出て、ムカつくのだ。まぁその前のお淑やかな印象からのギャップもあるのだろうが。


そんなふうに優が思っていると、若林は右手の手のひらを返し、たなごころを上に向け前に差し出し、目をつぶった。すると、


深森しんしん深深(しんしん)蓁蓁しんしんとし、(しん)なる巫女の住めるみやことなりて永遠の新榛しんしんを共にせん!」


「はぁ〜っ。痛い!詠唱まで行ったら痛いよお前!見てらんねぇ。……もうその設定を壊せる自信がなくなって────」


若林が何か言葉を羅列をし始めた。優はその痛々しい光景に文句を並べた。誰かに見られたら一巻の終わりだろう。


と、考えていた。


キーン


しかし、そう若林が言い終えた瞬間、若林の掌に緑色の光が集まりだした。


「な、なんだ!?」


夕陽が車に当たり、反射したようなその目を背けたくなる程のまばゆい光は、若林の手の上で凝縮する。集まりが落ち着いてきた時、


「”森の宮殿フォレスト・キャッスル”!ふんっ!」


と若林はその光の塊を灰色のタイルが敷き詰められた地面に打ち付けた。


その瞬間、土もないはずなのに植物が生え始めた。わさわさと生えていくその根は、まるで生き物のように屋上のタイルの隙間に入り込み、その植物はグングンと急速に成長し、一気に大木へと成長した。ト〇ロ程ではないが、超巨大なその大木はさまざまな事を納得するための判断材料としては十分すぎた。


「はあぁー。この世界ではこの位が限界ですね。一本しか生やせないし、しかもあっちと比べるとちっちゃいなぁー。」


「あ……ああ……。」


若林は額に集まった汗を右腕で拭いながら、そんなことを呟いた。が、優はそれを聞く余裕もなく、目の前の光景を見つめて本日二度目の唖然とした表情を見せた。この世のものとは思えないような力に唖然とするほかなかった。そんな優の表情に満足したのか若林────いやもうルミネと呼んだほうがいいだろう人物はスキップをしながら、大きな胸を揺らしてこちらに近づいてきた。そして、優の目の前で止まると、


「これで信じてもらえました?」


ルミネは満面の笑みで聞いてきた。


「あ、ああ。」


優は口をあんぐりと開けて、マヌケな声で答えた。んなわけあるか。こんなものを見せ付けられたら、そりゃ納得せざるを得ないだろう。しかし、ルミネの質問に肯定はしたものの、まだ信じるには時間が要る。優の頭の中では葛藤が起きていたから。


「じゃあ、信じてもらえたところで改めて聞きます。えーっ、コホン。……私と一緒に戦って(・・・)異世界・『ネビュラ』を救ってください!」


ルミネは最大限の期待を宿した目で優を見つめた後、断られることはもうないだろうという気持ちを込めて右手を差し出し、告白した後の返事待ちのように、頭を下げてお願いした。


優は一気に信じられない光景を目の当たりにして優の頭は混乱していた。しかし、その質問をされた瞬間、優は優の頭に溜まった血がスーゥと下に降りていくのがわかった。恐らくほかの質問であれば、パンクした頭では何も考えられず、『は、ひゃい。』などとマヌケな返答をしていたかも知れない。しかし、たった一単語のおかげでその質問には優にとっても信じられないほど冷静に答えられた。







「丁重にお断りさせていただきます。」

今回は2人だけやり取りでしたが、次の話は出来るだけ多く登場させようと思います。


次話でプロローグ終了です。お楽しみにー。

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