日常が壊れた日
神木 優
物語の主人公。髪は黒く、いつもぼさぼさで逆立っており、目はキリッと釣り上がっているネコ目。しかも、瞳孔も猫のような形で小さい。体の方は毎日のマラソンや筋トレの賜物か、少しがっちりしている方。健全な中高生のような性格で特徴と言えば少し怒りっぽい。
「う、うーん…。」
ベッドが接した壁に付いている窓からレースのカーテンをすり抜けて、顔に照りつけられた朝日によって目を覚ます────いや、正確には目を開けていないが、長い眠りから意識が復活させられた。
久しぶりに目覚まし無しで起きたおかげで頭の意識はハッキリとしている────と思ったのだが、ダラダラしたいという気持ちから来ているのか、頭はクラクラするし、体もだるい。目覚まし鳴ってないし、二度寝をしようとするも
「あーー、眩し…。」
照った光が眩しく寝れたもんじゃないので、仕方なく目を半開きにし、起き上がって辺りを見回す。淡い青色を貴重とした単調な部屋の一隅にベッド、勉強机はベッドの横に設置しており、机上はぐちゃぐちゃ。ベッドとは対角線上にドアがある。
この物語の主人公―――神木 優は眠たそうに欠伸をした。昨日の夜にケータイで動画を見過ぎたこともあってか、眠気はまだ中途半端な状態で優の頭の中を占領していた。
「うぅぅぅ────ん?」
そんな事を考えて、後ろに手を回すと、何かが手に当たった。振り返って自分の背後のベッドの上をみてみると、充電コードに繋がっていない自分のケータイが目に付いた。
(げっ!充電してねぇ!)
優が慌ててそのケータイの電源を入れようとするも、虚しくケータイの画面には要充電の電池のマークの『0%』が表示されていた。
「うっわぁ……。やっちまったぁ……。」
優の今日のケータイの学校での不使用が早朝から決まってしまった。優はケータイをコードに繋ぎ直し、ベッドから降り、無言のまま、着ていたシャツとトランクスの上からカッターシャツ、2ー3と書かれた校章の付いた学生服を着て、学校指定であるネクタイを締めながら、ドアを開け、自分の部屋をあとにした。
「おはよう。今日は早いはね~。なに〜?怖い夢でも見たの?」
ヒラヒラのついたエプロンを着こなし朝御飯を作りながら、父方の妹であり、今の僕の保護者である神木 由美は呑気な質問をしてくる。
「見てねぇし。見たとしてもそんなんじゃ俺は起きねぇよ。」
由美の質問に優はぶっきらぼうに答える。彼女は、優の両親が十年前に不慮の事故で死んでしまった時、行き場所を失った優を保護してくれた恩人である。父と母に親戚が少なかったこともあるが、何かと問題児であった自分を快く受け入れてくれた────端的に言って『良い人』だ。初めの頃は独身女性の事について多く聞かされ、面倒くさいやつだなぁと迷惑に思っていたが、今では本当に感謝している。
「あら。そんなに怒って言わなくていいじゃない。」
「怒ってねぇし。……」スゥースゥー
「……あんた、ほんと朝弱いわねー。」
そう言いながら、由美はテーブルの上に並べられた二つの皿の上に乗っているこんがり焼かれたパンの上にベーコンエッグを乗せる。そしてコーンスープの入ったコップを二つ置き、完成と言わんばかりにフーっと息を漏らす。
「ほーらっ!起きろ!」
「────んがっ!」ぐしゃっ
そして、いつの間にか椅子に座って寝ていた優の頭にチョップを食らわせる。優はトーストの上のベーコンエッグに顔から突っ込んだ。
「んがっ!熱い!出来たばかりだから熱い!」
「早く食べないと冷めるわよー。」
「うるさいわっ!今の状況は冷めてた方がいいわ!」
由美は優のツッコミをするりとかわしてエプロンを外し、椅子に座る。幸い、ベーコンエッグが付いたのは口の辺りだけで顔全体には付いてなかった。ツッコミを落ち着かせた優は机上のすぐそこにあったティッシュを一枚取り、口元を拭った。
この野郎めぇ。
優は精一杯の怒りの視線を送りながら、目の前の黄身の部分が既に噴射・陥没した朝食を食べ始めた。
でも、今日も美味しい。
由美の朝食に満足しながら、そくささと、また、深く味わいながら食べ終わると皿を流し台に置き、玄関への入口の扉に立てかけてあった中身も準備済みの通学用カバンを肩にかけ、
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
と、笑顔の挨拶を交わし、靴を履いて、鍵を開け、玄関から出て、通学路の道路を歩み出した。この当たり前の彼女との時間がとうぶん無くなってしまうことを知らずに。
通学路には、どこの金持ちなのであろうか、和風の仰々しい程に無駄に大きい御屋敷が建っている。庭に植えられているのであろう塀を乗り越える程の大きな桜の木の枝がほんの少し花びらを残し、あとは山盛りになるほどのたくさんの花びらを下に降ろしていた。
始業式から2週間の時が過ぎた今日。在り来りな毎日という最新日が始まった。
家から学校までの間は独りで通学する。あらゆる生徒が友人達と快い挨拶を交わす中、下駄箱で一人靴を履き替える。そして自分の机につくと、速攻で机のサイドにあるフックにカバンを掛けて、そのまま机に突っ伏した。昨日のネットの深夜徘徊が相まって、眠気が頭にまだ残っていたのだ。
「よっ!」
と、聞きなれた声がしたと同時に誰かに背中を叩かれた。
「痛っいなー。……ふぁ〜。こちとら眠いんだよぅ…。」
優は、叩いてきた相手を確認するために少し顔を上げた。掛けてきた声の声色から誰かは予想できるのだが、つい『誰なのか』と顔を上げずにはいられないというものであり、いわゆる『ひとつの反射の対象』として受け取ってしまうものだ。
見上げると、そこには見慣れた丸縁眼鏡が浮かんでいた。
「おい。今お前の中で俺の存在が否定されているような気がしてならないんだが。」
「な!眼鏡が喋った!?……あぁ、そうか……忠雅……遂に殻を捨てて本体だけに……。」
「おい。俺の忠告とも取れる言葉を受け止めた上でそれはねぇだろ!」
これまでの人生で何回したか分からないやりとりを交わす。日常に必須なこのやりとりは、毎日行われても全然飽きない。そして、このやりとりが無くなった時────それは、日常が壊れた時と認識して良いだろう。しかし、やり終えた後は特にすることは無く、朝のコミュニケーションタイムは余韻も残さず儚く終わる。
優は本来の相手を確認するために上げるという目的を果たした顔を下げながら
「あぁそうだね。分かった分かった。分かったから去れ去れ。……ふぁ〜。もう一度言うが、こちとら眠いんだよぅ…。」
そう言って、机上の面と顔を向かい合わせた。
「まぁまぁ。いいじゃねぇか。」
そう言って、優と同じくらいの身長の唯一無二の友人―――安藤 忠雅は少し下がりかけた眼鏡を押し戻しながら、隣の席に座った。
「なぁなぁ、聞いたか!」
「聞いてない。」
「いや、まだなんも話してねぇよ……。それがなんと今日!転校生が来るんだぜ!それも女子!夢が広がらねぇか!」
「別に興味無い。」
「嘘つけ~。心の中でもう美少女との出会いを妄想してるくせに~。」
「そんなことしてにゃい。」
「噛んだら説得力ガタ落ちするぞ…。はぁ、つれないやつだなぁ。お前は。」
「俺はこの日常が続けばいいよ。」
二人でそれぞれの外見に似合わないような発言しながら会話をする。忠雅はこの会話の通り女の子が大好きだ。しかし、それは裏の顔であり、表の顔では真面目な優等生を演じきっている。というのも、優等生で通してみんなからの信頼を得て且つ女子にもモテたいんだとか…。しかし、あまりの真面目っぷりのせいで女の子があまり寄ってこないと言う。
しかし、ルックスだけで陰でモテていることを知っている優にとって、その理屈は皮肉でしかなかった。まぁ実際その事は忠雅は知らないのだが。
優は興味無さそうにそう返事しながら、体は机に突っ伏したまま、忠雅の方に顔を向ける。
「巨乳なら別だけどな!」ニカッ
「……本当。お前はその性格だけは残念だなぁ…。」
優の満面の笑みを浮かべながら自身の理想を呈示するその無邪気でありながらも、小馬鹿さが入ってる態度に呆れながら、忠雅が掌を天井に向け左右に首を振っていると、
「ま~たそんな話してるの?」
またまた、聞き覚えのある今度は少女の声が聞こえてきた。腰の辺りまで伸びているセミロングの艶やかな黒の髪をなびかせながら、腰に両手を当て、ほんの少し膨らんでいる胸を張りながらこちらを蔑んでいる。彼女の名前は如月葵。
「お前は……A………いや、Bか?フッ。どちらにしてもお前は見た目通り小さいか。」
「な!あんたどこ見てんのよ!クズ!変態!」
葵は優からの羞恥に頬を赤らめながら、無い胸を手で覆うように隠した。なんか胸を押し上げて、膨らみを作ってあるように見える様にしているようだが、それは意味がありません!
「……で、転校生が来るの?男子?女子?どっちかしらね!」
「詳しく知らねぇのかよ。…説明するのだるいし、大きくもないお前に話す気は無い。」
優は体は突っ伏したまま顔を反対に向けた。
「!…あんたって奴はっ…。そんなに私から殺されたいのねっ!」
「あーあ!人の器の大きさはその人の胸の大きさに比例しているん……ぐはっ!嘘っ!嘘だからっ!死にます!ほんと死ぬ!死ぬがら!うがっ…うがっ…がっ…がっ…がががっ………。」
葵は優のそっぽを向きながらの貧乳女子を馬鹿にするような言葉を遮るように優の首を力強く締める。これで、怒った時の5分の1の力も出していないのだから驚きである。
優の必死の抵抗も虚しく
ガクガク ビクンビクン
ガクリ。優は気絶し後ろに項垂れた。葵は優が動かなくなったところで、手を放す。
「容赦ないなぁ。」
「私を侮辱した。万死に値する。っていうか忠雅、あんたそこ私の席なんだから、どきなさいよ。」
「へいへい。どきますよ。…愛情表現はほどほどにね。」
「なっ、何言ってんのよ!あんたも殺されたいの!?」
「ヒィーーー!」
葵は頬を紅潮させながら、忠雅に殴りかかるもスルッと避けられ、そのスキに忠雅は自分の席の方へ逃げ出した。逃げ足だけは早いヤツである。葵が追いかけようとした時、
キーンコーンカーンコーン
と、朝のホームルームのチャイムがなるのと同時に担任の小林先生が入ってきた。クソっと呟きながら葵は席につき、優もようやく意識が戻る。
「はーい。ちょ~っと時期が遅れているような気もしますが、今日みんなには新しい友達を紹介しまーす。では入って~」
小林がニコニコしながら紹介すると、1人の少女が入ってきた。
若緑色の背中まで伸びた髪の毛先は天パなのかくせっ毛なのかクルッとカールとなっており、胸もかなり大きい、首には何か石のようなものがついたペンダントをさげている。学校はペンダント許してたっけ?
「若林瑠璃です。よろしくお願いします。」
教壇に登ったその少女は、そうクラス全員に聞こえるように自身の若々しく潤った唇を通して自己紹介した。
そう。これが俺の日常が壊れて消えた日の朝の出来事だった。
そして、この時の俺は……あんなことが起こるなんて知る由も無かった。
アスタリスクです。予定がかなり不安定なので、不定期投稿になると思います。ご不満かとは思われますが、暖かい目で見守っていただければ光栄です。プロローグである現実世界での出来事は3・4部ぐらいになり聖剣はまだ出てきません。少し長くなりますが、ご了承ください。また、この小説では名前はナレーションにおいて大体は下の名前で書きます。よろしくお願いします。