理不尽は突然やってくる
神様────
土煙が下で舞い、桜の花びらたちはそれに流される者もいたり、逆に砂粒の重さに耐えきれず地面に降下して砂塵に埋もれる者もいたりした。弱々しい春風に土煙はビクともせず、薄く土煙の奥を見通させるだけで街からは出て行く気配を今のところ見せていない。
上から見渡す限りの光景には、耐震工事を完了した施設以外の、建物だったものの残骸が街中に散らばっていた。家々だけでなく、街灯、信号機、電柱、コンビニやファミレスなどの大きな看板。また、建物ではないが、積み重なったり、行くはずのない高さでぶら下がったりしている車。今さっきまで誰かが乗っていたであろう電車。様々なものが、普段は見ることが出来ない────あってはならない状況でその人物の目に飛び込んできた。
神様……何でですか?────
ザッザッザッ
カシャンカシャン
「う……嘘…だろ?」
その人物はその屋上を数歩歩いた後、衝撃的な光景に息を飲んだ。信じられないその風景にまだ現実味を感じられず、フェンスに右手を押し付けて、顔が着きそうな程まで近づけて目を見はった。
どうか……どうか、神様────
ドラマの撮影であってほしいと思った。映画でも良い。しょうもない街観光PR映像でも良い。壮大なドッキリでも良い。現実でないのならなんでも良い。どんなものでも良いから…。
高校の制服を身に付けたその男子生徒はあらゆる可能性を想起し、その『現実』から、現実を確かにある二つの目で見つめながら、目を逸らそうとした。しかし、こういう時に限ってそんなあらゆる可能性よりも、何よりもその現実に対する負の感情や焦りが沸き立ってくる。
どうか……どうか、神様────
生憎にも、まだニュースのテレビ局のヘリもまだ来ていない。来るはずもない。消防隊やそれらの類も見つからない。見つかるはずもない。ちょうど今さっきまで、活気溢れていた訳でも無いが、寂れてもなく、都会でも田舎でもないが、ただ悠々としていて、この屋上からは景色がまあまあ良かったその街は、今さっきの揺れを境にこの地域から出ていってしまったようだった。
好きだった。
かなり好きだった。
気に入っていた。
とても気に入っていた。
いつでも安心出来た。
大好きだった。
なのに。
急にどうして。
いきなりなんで。
どうしてどうしてどうして
どうか……どうか、神様。もう…これ以上…僕から何も奪わないでください。