プロローグ
王歴319年 蒼の月 13日
最近、父さんの話す言葉がよくわかりません。元々よくわからない言葉をいっぱい使っていて「父さんは偉い人なんだ、すごいな」としか思っていませんでした。でも最近、僕に話すこともよくわかりません。この前算術の勉強をしているときもほうていしき?がどうとかおり・・・なんでしたっけ。とにかく何かと僕を間違えているようでした。頑張ったのに何も言ってくれないのでちょっと悲しいかな。
けれどそのあとすぐに
「俺の子どもは天才か!」
と喜んでくれたので、間違えてしまって怒っていたわけではないようです。褒められてとてもうれしいけれど、さっきのは本当になんだったのだろう。というわけでお父さんは近頃時々変なことを言います。僕がもっと勉強して頭が良くなれば分かるようになるのかなぁ?
-------------------------------------------------------------------------------------
「本当に俺と同じってわけじゃないみたいだな・・・」
俺は、アラン・レグナー。自分は大学3年の時、日本からこの世界に飛んできた。異世界転生をしたのである。そこそこ便利な能力とたまたま持ち合わせていた技術で、あれよあれよという間に一介の不審者から辺境とはいえ大きな領地を持つ貴族にされてしまった。こうなったのはひたすらに運が良かった事、そして何よりエヴァ、いやエヴァンジェリンとの出会いが自分を救ってくれた。小説の主人公のようなたいそうな冒険活劇があったわけではないし、とてもではないが勇者と呼ばれるような聖人君子ではない。しかし、前の世界で手に入らなかった幸せをこの世界で目いっぱい得ることが出来ている。自分がいる事に意味があったのだと実感することが出来る。この世界に来て本当によかったと、心の底から思えている。
そして諸々の処置と処理、論功行賞を終えて貴族となり数年、仕事を覚え一段落したところで自分は人生で初めて子供が出来た。実は前の世界では親子というものにあまりいい思い出はなかった俺だが、自分の子どもはそんなネガティブなイメージを一切合切、すべて消し飛ばしてしまった。ただただ可愛かった。なんだこの生き物、俺を萌え殺しにかかってるだろ。味わったことのない感覚。しかしそれがとても心地よく、自分が親だという実感と責任感を持たせてくれる。充実していた。そんな幸せの絶頂に浸っていた俺だが、自分がこうしている以上湧いてくる疑惑がある。
「あれ?ウチの子も転生してるんじゃないか?」という事。下手をするとただの下衆の勘繰りであるが、やはり気になってしまうのは仕方がないことだった。そうであっても自分の子は可愛いが、さすがに自分より精神年齢年上の子どもとかどうやって接したらいいかわからない。
そこで、自分の心の準備のために3歳の可愛い盛りから少しずつそれとなくほのめかしてきた。勉強の合間、遊んでいる最中、食事の前。それも今日で3年。今日もまた、何故かこの世界基準では高度な部類になる計算を少し教えただけで解いてしまった自分の息子はやはり少し変だ。そこで確かめてみたが、結果は今までと何も変わらず全く覚えがない様子だった。なんだウチの子はただの天才か。なんだよ心配して損した。これで俺は何の憂いもなく子どもを甘やかすことが出来る。最近少し構いすぎたせいかエヴァがうるさい。嫉妬してるのか?ああ、俺の嫁も可愛い。皆可愛い、可愛いなぁ・・・
というわけで、自分の子どもが可愛いのでなんでもしてあげようと思う。ルカ、お父さん何でも買っちゃうぞ。・・・エ、エヴァさん。分かったからそのレイピア、机の上に置いて少し話し合いませんか。
父親の視点は、これで当分ありません。あらすじの通り主人公はルカ君です。あしからず。