47. 伝説の大賢者と、白銀の敗北。
「ここはギルド登録の場。だがその前に、お主の『器』を測らせてもらおうかのう」
ラクサスに連れられて白い扉を潜ると、そこには広大な演習場が広がっていました。いつの間にか観客席には、ママやノエル、ギルドの面々まで揃っています。
(このじじい……ただのギルドマスターじゃないわね)
「審判はジョヌ、お主に任せたぞ」
「ちっ、めんどくせぇ。マスター、後で高い酒を奢れよ?……んじゃ、始めッ!!」
開始の合図と共に、ラクサスが指を鳴らしました。
「『ノヴァ』」
「っ!?『アポステンテリ』!」
突如出現した黒い星が膨張し、爆発的な衝撃が私の結界を叩きました。殺さないと言いつつ、一歩間違えれば即死の威力。冷や汗が背中を伝います。
「ほう。儂の爆発を防ぐとはな。お主、何者じゃ?」
「ただのママの子供よ。血は繋がってないけどね。……それよりあんたこそ何者? 無詠唱で最上級魔法を連発するなんて、普通じゃないわ」
「ふぉっふぉっふぉ、若気の至りじゃよ。『クリティカリティ(臨界)』」
「あっつ!!『アブソリュートゼロ』! おい、じじい! 話の途中で臨界魔法なんて撃つな!」
周囲の物質が溶け出し、気温が跳ね上がります。私は氷魔法で相殺しながら、確信を持って叫びました。
「とぼけても無駄よ。……あんた、伝説の『大賢者』でしょ?」
「……ふぉっふぉっふぉ。なぜそう思う?」
「『あの人』に聞いたのよ。……あんた、あたしの正体も分かっててやってるわね?」
ラクサスは細めた眼光を鋭く光らせました。
「光によって色を変える髪、虹色の瞳。精霊と妖精、全ての属性を従えし天使族の姫……。隠し通せると思うたか?」
(やばいやばいやばい! 完全にバレてるパティーンじゃないの!?)
内心の動揺を隠し、私は不敵に笑い返しました。
「……正解よ。さすがね、クソじじい」
「口の悪いお嬢ちゃんじゃ。『コロナ』」
「『アポステンテリ』! もう、お喋りは終わり! 最後の一撃でケリをつけるわよ!」
私は魔力を限界まで練り上げました。全属性の力を一つに。
「『ディプレイション』!!」
「『メテオ』」
天から降り注ぐ巨大な隕石と、私の放つ消失魔法が正面から衝突しました。
――ドォォォォォォン!!
鼓膜を突き破るような轟音と共に、演習場全体が白い砂埃に包まれました。
……やがて、風が埃を攫っていきます。
視界が開けた時、そこに立っていたのは――悠然と杖をつく、大賢者ラクサス一人でした。
「……くっ、そ……」
私は膝をつき、荒い息を吐きながら彼を見上げました。
初めての、完全な敗北。 伝説の壁は、今の私にはまだ、あまりにも高く分厚いものでした。




