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(7)
『もうどうしようもないの……こうするしかないの』
長い黒髪がだらりとその女の顔を覆っていた。
『許して』
僕の視界が真っ赤に染まった。
「あっ!」
瞼を開いた。
いつの間にか、眠ってしまっていた。
「いまのは……夢……?」
違う。
僕はテーブルの上の本を見つめた。
五代目が「泡」を施したあの本に、うたた寝しながら触れてしまったのだ。
強力な封印が施されてもなお、強い念が溢れ出し、それに感応してしまったのだろう。
血に濡れた黒髪の女は、いつかその本が見た情景だ。
黒髪の女性が過去に何をしたのか、想像するに容易い。それは目を背けたくなるような絶望にまみれた光景だった。おそらくは、その時の血で穢れ、穢れによって目覚めてしまったのだろう。
僕の中にどろりとしたものが残っている。
失意と絶望。
そこに見え隠れする愛惜の念。
僕は五代目が戻るまで、とりつかれたように、紅い夢を反復し続けた。
ガラス戸に叩きつける激しい雨の音だけを聞きながら。