01『死んだら魔王になりました』
俺は、坂口英斗、ごくごく普通な家庭に生まれ、ごくごく普通に学校生活を送っている高校二年生。彼女はいない。四回ほど告白されたが全部断っている。理由は簡単だ。恋愛には興味など微塵もないからだ。正直、めんどい。
何故、そんなことをかんがえていたかというと、
「先輩。お待たせしました!」
笑顔で歩いて来る女子高生。
俺の学校の後輩、鈴宮奏。サッカー部のマネージャーをしていて、学校の女神と名高い娘である。
そう、昨日の放課後に俺に告白してきたのだ。もちろん、すぐに断るつもりだった。
しかし、
「祝日の明日、お試しデートをして、ダメだったら諦めます!」
と言ってきたのだ。
俺は断るとメンドクサイことになると悟り、しょうがなくOKして、今に至る。
「それじゃあ、行くか。」
そういうと、鈴宮は俺の隣に来た。
平凡な俺がこんな美人女子高生と歩いていたら、かなり目立つだろう。
ていうか、早く帰ってマンガ読みたい。そう思いつつ横断歩道を渡ろうとしたとき、トラックが信号無視して暴走してこっちに突っ込んで来る。その先にはーーー
「危ない!鈴宮!!」
グイ!っと、鈴宮を引っ張り、
ドンッ!っと、俺はトラックに撥ねられた。
「「「キャーーー!!!」」」
それを見ていた人たちが悲鳴を上げる。
俺は、体中の力が抜けていくのがわかった。痛みもない、苦痛もない。
俺は鈴宮は無事か確認する。
よかった、無事みたいだ。
「せ、先輩!?」
鈴宮は叫びながら、俺に駆け寄る。
「坂口先輩!坂口先輩!」
やべぇ、意識が薄れてきた。
俺死ぬのか。
「す、鈴宮・・・うるせぇよ。こんなケガ大したことねぇよ・・・」
「でも、先輩、体が・・・」
泣きじゃくった顔で、俺を見る鈴宮。
鈴宮、泣くのをやめろよ・・・。
声を出そうとしたが、出せなかった。やばい、死んだなこれ・・・。
猛烈な寒気が全身に駆け巡る。おそらく、全身の出血のせいであろう。
「す、鈴宮ぁ!!」
「坂口先輩!!」
「鈴宮、お前はものすごく美人なんだ。
だから、もっといい彼氏・・・見つけろよ・・・」
俺は、最後の気力を振り絞り、それだけを告げて意識を手放した。
坂口英斗は、あっけなく死んだ。
だが、この瞬間坂口英斗の"精神"は偶然にも別次元で誕生した生き物とリンクした。
坂口英斗はこの瞬間から別次元の世界の生き物として誕生、否転生することとなる。とても暗い場所、これが死後の世界か・・・思っていた場所と違うな・・・。
そう考えつつ、瞑っていた瞼を開けると。
「え、ここどこ?」
見知らぬ天井が俺の視界には映っていた。周りには高価そうな置物や壺が綺麗に飾れている。
俺の記憶が正しければ、俺は鈴宮を助けトラックに轢かれてかっこよく死んだはずでは?
「訳が分からねぇ、どうなったんだ俺は?」
俺が混乱していると、ギィィィッ・・・と、扉がゆっくりと開く音がする。
その音のした方へと、目をやるとそこには、鋭くダークレッド色の短い角や黒い尾が生えた明らかに人ではない異形質の姿をした執事服の者がいた。
「おはようございます、そして初めまして・・・『魔王』ウェート・クロノス様。」
えっ?この人、今なんて言った?
俺のことを『魔王』って言ったのか?
理解できないことに悩んでいると異形な執事は、
「理解しがたいのは無理もないです。貴方様はたった今、新たに誕生した魔王なのですから。」
と目を輝かせながら言う。
「あ、申し遅れました。ワタクシは上位悪魔のヴァエル・キラードと申します。」
俺はヴァエルと名乗る執事をよそに呆然としてしまった。
俺、死んだら魔王になりました。