#7 水城の過去
▼水城の過去
夜は、上弦の月が綺麗であった。星も、東京や大阪で見るものとは全く異なった明るさで、まるで空に無数の宝石を鏤めたかの様である。そんな中、縁側で涼みながら叶は思いに耽っていた。
「綺麗な夜空でしょう?都会では見れない責重な夜空でしょうに……」
まるで、ここに一人で叶がいる事を察知したかのように水城の祖母は声を掛けて来た。
「水城のこと、宜しくお願いしますね……あの子人一倍気が強いものですから、色々とご迷惑をおかけするかも知れません。そこで、誤解のないようにあの子の生い立ちを少し明かしておきたいと思います」
叶の横にある石に腰を下ろし、ゆつくり夜空を仰ぎながら、思い出すように話し始めた。
「あの子には、両覗がいないんです。そこには一つの事件がありました……」
そう云えば、夕飯の時両親を見かけなかった。
気にはなっていたが、ここで聞けるのならと叶は問いかけた。
「事件?」
「もともとあの子の両親と水城はここでは無くここから一キロ離れた家に住んでおりました。そして、水城の母もユタであり、水の陰陽師でもありました。そこで水域のカを知りそのカを制御する為にある術をかけていたのです。しかし、一日。ただ一日それを怠った為に、ある日寝入った夜更けに火災が発生しました。その火は一夜をかけて消火活動は行われましたが、家は全焼。ただその中でただ一人炎の中、水城が生き残ったのです」
「何で、忘れたりしたんや?」
疑問だった。そんな大切な事を忘れるなんて……
「水城が五歳の誕生日の日でした。誕生日のお祝の為、朝から色々と用意をしていたので、慌ただしくて忘れてしまったのでしょう……それからと云うもの私は両親の変わりにあの子を見守って参りました。全てを教えて。でも、あんな風に振る舞ってはいますが、小さかったあの子は記憶の中で自分が生まれてきたその疎ましさを忘れてはいない様です……一日に一回は、必ずその焼けてしまった家を見に行っているようです。自らの戒めを感じる為に……ここに居ては、そのしがらみを背負うだけ背負ってあの子の心は罪というものから逃れることは出来ません」
愛されて生まれて、とことん愛されて……その代償が、両親を死に追いやった。叶とは相反するが、孤独と言うその気持ちは十分心にしみる。
「分かったわ。それで、宮古島から一度出してみる方がええと思った訳やな?」
「そうですね。忘れる事が出来なくとも、少しは気が紛れるとそう思いた訳です」
そう云うと、ゆっくりと腰を上げた。
「もし、京都に入る事になり、あの子が五行の者達に寝返らないように、云っておきます。あの子の誕生日は、寅の年の八月三十一日。そして、逆凪対処法は、首から下げているお守りのお札です。毎日取り替えて使用しておりますゆえ。それをとられると、術は逆凪となりあの子に跳ね返ります」
陰陽師にとっての命にも関わる大切な事を聞かされ、一瞬戸惑う叶であったが、それだけ本気なのであろう。云い伝えを守る為である。その辺りは、家族も惜しまないと言う訳だ。
「承知したわ。さて明日早いし寝るかいなあ〜」
と、叶も立ち上がった。
そして、振り返るとヒンプン(屏風)の影に水城が身を隠しながらこちらを窺っていた。
「……」
今迄の話を聞いていたのか?水城はおし黙っている。
「……よお。明日は早いで〜早寝んかいな〜子供が起きとる時間やないで〜」
気を使って、叶は誤魔化した。すると、
「なによ、せっかく『気』の使い方を教えて来てやったのに、寝てろって云う訳!?」
つんのめるように歩いて来て靴を履いて庭に下り立つ。
「あ、そういや、そんなこと云っとったなあ〜」
思い出したように、顎を指で掻いた。
「チャっチャとやるわよ。どうしようもないんだから……これが伝説の陰陽師だとは呆れるわね」
本当にロが悪い。かえでとどっちが勝るだろうか?そんな事を考えながら今ここにいないかえでの顔を思い出しながら微笑んでしまった。
「笑ったな!もう教えてやらない!勝手に垂れ流しておけばいいのよ!」
頬を膨らませて、水城は戻ろうとした。それを叶は追いかけて、止まらせる。すると、いきなり肩を小刻みに震わせ水城は叶の元で嗚咽した。
「何やねん!一体!?」
警きのあまり、叶はどうすれば泣き止むのか対処に困った。その様子を見ながら、祖母は、
「泣かせてやって下さいましな。この子、両親が亡くなってから一度も泣いてませんから……」
それだけ云うと、全て叶に任せ静かな足取りでゆっくり家に入って行く。
溜りに溜ったものが今やっと転機を迎えるとそう感じ取ったから水城は泣いたのかも知れない。そう思うと、小さなこの少女の頭を撫でてやった。それしか叶には出来なかったのである。




