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#5 失踪

▼失踪


 叶の祖父の初七日になる一日前の東京は、涼しい風が木の葉をまき散らしながら、行き交う人の群れを吹き抜けて行く頃であった。もう少しすると、本格的に冬になるであろう。

 そんな中、朔夜は秋元病院の一室に足を向けていた。

 叶が退院してからもその状況は変わっていなかった。それが朔夜自らの戒めとも云わんばかりの日々である。

 しかし、この日、秋元病院は何かしら不穏な雰囲気でパタパタと騒々しかった。ただでさえ、夢見が悪く気分が優れない。それが何なのか分からず、気になりながらも足早に神楽のいる個室へと向った。

 しかし、その個室の前に来た時、その原因が分かった。主治医、そして看護士達の人だかり。それから、廊下に続いている血痕。それに気が付いた時、素早く朔夜は駆け寄った。悪夢が朔夜を呼び寄せたかのように……


 人だかりをかき分け、病室に入る。すると、目に入ったのは抜け殻のようなベッドと、叶が張り巡らせておいたはずの引き裂かれた結界の札。そして壁には血文宇で、

『都住朔夜へ。いずれ山城の地で待つ』

 それを見るなり、ここに雅樹が来たのだと分かった。結界で傷だらけになりながらも、神楽を連れ去らなければならない理由。その理由は図り知れないが、自らを傷つけてもそうしなければならない事態が雅樹に有ったのであろう。それだけは分かった。

 そんな中、呆然としている朔夜の肩を叩く者がいる事に気が付いた。

「都住。またお前か……」

 直紀である。

「今日は塚原は一緒じゃないのか?お前らが絡むと、ろくな事がない。未解決事件の大放出だ。不愉快な仕事が増える……こんなのは警察に任せたとしてもどうしようもないというのに……」

 うんざりはしているように見せ掛けているが、眼鏡の奥の瞳の直紀は興味有り気だ。

「叶は一時大阪に行ってますよ。それにしても、城戸君も大変ですね。こういう仕事ば・か・りに当たって」

 朔夜は少し苛つきながら答えた。別に好き好んでこういう事件に遭遇している訳ではない。勝手に事が運んでいるだけである。ま、占夢者と言う家業をしていれば、似たような事に自ずと当るものだが……

「山城の地か……昔の京都だな……」

 話をもとに戻す。

「行くのですか?では、僕も付き添います……」

「こう行った類いでも、事件は事件だからな。これで国民から得た税金で食っている訳だし。しょうがないだろう?ま、着いて来るのは勝手だが云っておくが、旅費は持たんぞ。俺も仕事で行く訳だし」

「……期待してませんよ」

 苦笑いして、朔夜と直紀はその場を取り仕切っている鑑識達を後に良ち去って行った。


「そう云う訳ですから、僕達は京都に向います。かえでちゃんには、体養を取ると云う事で仕事も断りました。ま、連絡は入る事と思いますが」

 一言叶に連絡を入れておきたかった朔夜は、荷物を片しながら叶に電話をした。

 しかし、当の本人の叶はその必要はないと云う。

「どうしたのです?やはりお爺さんが亡くなった事が影響しているのですか?」

 叶はその事に関しては一瞬躊躇ったが、話さなければならない事があると、全てを朔夜に云って聞かせた。


「それでは、京都に向うのは考え直した方が良いかも知れませんね……」

 今行っても無意味かも知れないと云う結論。雅樹が云う、『いずれ』とは今では無いのかも知れないが、仲間を集めてしまっているとなれば話は別である。何とも云いがたい。しかし、そんなに直ぐに仲間を見つけられるのだろうか?疑問は生まれる。

 その件に関して、朔夜は叶に問いかけた。

 すると、叶に伝授された陰陽術一武に、五行を司る者達を探し当てる為の術が有ると云う事であった為、朔夜はその事に耳を頓けた。既にその術は紐解かれ、探索の手は広がっていると云う。

 雅樹はまだ仲間を集めている様子は無いらしい。そしてその紐解いた先の手がかりは、まず地形的にも狭い範囲の沖縄だと知らされた。

 そして、叶の夢を見ない体質の事も把握できた朔夜はホッと息を吐く。こういう形の夢見ぬものがいる事が把握できたからである。しかし、安心はしていられない。『貘』という予言が成立してしまえば、その時朔夜はどう叶と接する事になるのであろうか?心配事はやはり変わらない。そこで、勤揺を隠す為にも朔夜は叶に、

「では、明日関西空港で落ち合いましょう。僕も一緒にいた方が良いでしょう?叶?」

 こうして、明日からのスケジュールを話し合う事になった。


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