表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

#10 逮捕

▼逮捕


 機長の首根っこにナイフを突き付け三好浩輔は入って来た三人に向って叫んだ。

「ここでこいつの喉を掻き切ったらどうなるかな?一気にこの飛行機は落下するぞ!」

 この様子に隣の副操縦士はもう気が気ではなく、三好浩輔の云いなりで、操縦を怠っている。

 手放し状態と云っても良い。

「おい、燃料が尽きる迄飛び回れ!」

 三好浩輔は、指示を出す。

「そのナイフ、よく持ち込めたものだな」

 ゲートをくぐる前、持ち物の検査がある。細かい金属も反応するほど最近の物は大変敏感だ。それなのに持ち込んでいるとは侮れないと直紀は思った。

「なあ〜に、持ち込んだ訳じゃない、飛行機の中に有ったものを拝借しただけだ……このナイフと、お前が所持している拳銑。どちらが早いだろうなあ〜」

「なるほどな。で、俺達をどうするつもりだ?」

「死の恐怖を味わってもらう迄だ。おい、この燃料はどれだけ保つんだ?」

 その質問に、喉元にナイフを突き付けられた機長は脂汗を垂らしながら、

「長くて一時間ほどです……那覇迄の燃料しか入れていない……」

 隣の副操縦士を見ながら震える唇で応える。

「だとさ。どうするよ?死への秒読みが始まったな!根気の勝負だぜ?」

 直紀は諦めに入った。拳銃はどう考えても引き金を引くより早く喉元を掻き切るであろう……もしもの事もある。この状態ではお手上げだった。そんな諦めモードの直紀を後ろから叶がつつく。

「ここで俺に代わっててくれんやろか?こういうのは術を使った方が手っ取り早い……直紀お前は手錠を用意しとけや」

 耳打ちするようにボソボソと呟く。

 確かにこういう場合物理的な事より手取り早いと悟った直紀は叶に一任する為に位置を入れ代わった。

「何だ。てめえは?」

 突然の交代で三好浩輔は訝し気に叶を見る。

「ここにいる刑事の友人どすえ〜で、殺人って面白いんか?」

 営業スマイルで問いかける。こんな深刻な場面でこの笑顔は逆に三好浩輔を苛つかせた。

「楽しいさ、この人生その為に生きているといっても過言じゃないぜ?人が苦しみみじめに血を流す姿。それが快感だ!」

 三好浩輔の甘美な妄想は尽きない様子で、叶は笑顔の裏でむかついていた。

「なら、ここでお前が死ねば良いんや。殺された者が感じたと思っとる快感をお前も感じろや!」

 静かに両手を合わせ印を結ぶ。その行為が良く分からない三好浩輔はジッとただその様子を眺めていた。

「縛!」

 すると、全身のカがいきなり抜け突如機長の首筋に向けられていたナイフが操られるかのように、自らの心職に向けられた。

「な……何だこれは……」

 三好浩輔から解き放たれた機長はハッと気が付き操縦桿を握る。無事飛行機は安定した。そして、那覇へと航路を急ぐ。その様子に、直紀は安心した。

「死を間近にしてみてそれがどう云うものだか自ら感じてみてどうや?勝手な妄想はそれまでにしとけや!直紀、出番やで?」

 振り返り、直紀に全てを任せようと叶が入れ代わろうとした時、事態は急変した。いきなりの吐き気が叶を襲ったのである。よろよろとした足取りでよろめく。その様子に気が付き、直紀は叶を支えた。

「どうしたんだ?塚原?」

「やばい……この状況を察知して、こいつに付きまとっとった死霊が集ってきたんや……」

 叶は三好浩輔に自らの罪を思い知らせる為に脅しでナイフを心臓に構えさせた。しかし、その事象を都合良いと死霊がナイフの先を押し進める。

「早よ手錠をかけんかい!マジでヤバいわ!!」

 直紀は三好浩輔が握っているナイフを持つ腕を鷲掴みにする。しかし、押し進められて行く行為はあまりにも強烈で、直紀のカでは押さえ切れない。

「無理だ!余りにもカが強すぎる!!」

 直紀は必死でその行為を止めようとしていたがその行為は虚しい。このままでは自らの心臓を貫き本当に死んでしまう。許せない犯人ではあるが誰もこいつを殺すつもりなど無い。罪は違う形で償うのが元来ある形だ。死して罪を償うと云うのは何人たりとも有ってはならない。

「どいて、私が止める!」

 叶の後ろに控えて事の次第を見聞きしていた小さい水城が二人の間をかいくぐり、ひょっこり姿を現し直紀の前に出た。

 両碗を頭上に翳し、念を込めると一気に死霊をなぎ払う。その後澄み切った空気がコックピットに流れ込んだ。


「お兄ちゃん?このくらいの怨霊に気分悪くしてるとこの先保たないわよ?」

 水城はクスッと笑うと来た道をテクテクと振り返りもせず狭い歩幅で歩いて行った。

 その後ろ姿を見ながら、

「えらい強烈な味方やな……オエっ気持ち悪……」

 叶はそのままトイレへと駆け込んでいった。

 その様子を見ていた直紀は呆れながら一息つくと三好浩輔の両腕に手錠をしっかりとはめた。そしてその上に自らの上着をかぶせると、

「鹿見島迄貴様を連行する。どれだけの刑を受けるかは分からんが、無期懲役は確実だろう。きちんと罪は償え!」

 直紀はそれだけ云うと、コックピットの機長、副操縦士に一礼し静かにその場所を離れた。

 この一騒動は一件落着した訳である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ