4.夢の続き
村に1人の男がいた。仕事は城の警護をしている。男には数年前から不思議な能力が備わっていた。夢で見た内容が実現してしまうというものだ。正夢の類である。しかし、それとは少し違う。なぜなら男はあらかじめ、それらの事象に対して何らかの対策が可能であり、例えば自分への災難ならば回避することも出来るのだ。初めは誰しもが経験する正夢だと思っていた男も、単なる偶然ではないと気付いた。今ではこれを上手く利用している。
ある日の仕事帰りのこと。男は同僚に行きつけの店で一杯やっていかないかと誘われる。
「お、いいね。しかし今日はあの店はやめよう。最近見つけたなかなか良い雰囲気の店があるんだ」
男には今日行きつけの店に行けば、酔っぱらい同士の喧嘩に巻き込まれ、証人として朝方まで役人の事情徴収に付き合わされるという未来が待っているのだ。
少し行動を変えればいい、ただそれだけ。何も同僚の誘いを断る必要はないのだ。よって、人付き合いも今までと変わることはなく、周りとの関係も良好だった。
しかし、例外はある。夢を見るのは自分自信の身に起こることだけではなかった。自分の目の前で誰かが事故で死んだり、また見知らぬ土地で争いが起こる夢を見たりした。自分はヒーローでもなければ神様でもないのだからと割り切り、男は極力その類の夢には関わらないことにしていた。
だが男は次第に気付く。未来に起こる事象を予知的に夢で見るのではなく、夢で見るから実際に起こるのだと。その結論に至った経緯はいくつかある。些細なことからもそれは感じ取れた。自分が不治の病におかされた夢を見たときだった。さっそく次の日に病院に行くと、医者からは、この時代の医療では無理だとさじを投げられた。しかしその日の夜に、病原体が綺麗さっぱりなくなったとその医者が驚いている夢を見たら、現実にもそうなった。医学的には100%あり得ないとのことだった。
そんなある日、男は布団から飛び起きる。
「まずいことになったぞ……」
この国に巨大な津波が押し寄せている夢を見た。不幸中の幸いにも近づいている夢だけである。
それ以降というもの、その夢を見ることはなくなった。と同時に津波も来ることはなかった。男の中の不安は次第に消えていき、普段通りの生活に戻っていった。
そうして2,3ヶ月が過ぎた日の夜、男はまた夢を見た。今度は地球に巨大な隕石が近づいてくる夢。
次の日も、また次の日も同じ夢を見た。地球と隕石との距離は次第に近づいていった。
隕石が日毎に近づくにつれ、男のかく汗の量は増える。
「今度こそまずいことになってしまった」
夢を見た内容は回避出来る。しかし今回ばかりは……いくら自分が騒ぎたてたところで誰も信じやしないだろう。下手したら変人扱いされ、ひどい場合には牢屋に入れられかねない。
しかしまだ手段はある。そう、夢を見なければいい。
男は寝るのをやめた。1日、2日……
さすがに男も限界を感じ、うとうとする……次に意識が戻ったのは、隕石がもう間近に迫っている夢を見た後だった。
次第に男は精神的におかしくなっていく。
「ふふふ、そうだ。簡単なことなんだよ。このまま夢を見なければいいだけなんだ。永遠に」
そう言うと、男はついに自分の命を絶ってしまった。
遺書には、自分の命1つでこの世界が守れるなら、という旨が書いてあった。
それからというもの、何事も起きることなく平和な世界が続いた。
しばらく経ったある日のこと。とある国のお姫様が目覚めて召使に言う。
「ばあや聞いて。昨日怖い夢を見たわ。巨大な隕石が地球にぶつかった夢をみたの」
「あらあら、物騒な夢ですこと。それよりお嬢様、朝食の準備が出来ていますわ」