2.領収書
「いらっしゃいませ」
都内の本屋で青年はアルバイトをしていた。年齢は22歳。週に2~3回のペースで、近くのアパートから通っている。特にお金に困っているという訳ではない。小遣い稼ぎになればと思い始めたことだ。主にレジ打ちをしており、空いた時間に本の整理をする。
レジの前に1人の客がやってきた。顔にはマスクをしており、格好はお世辞にもおしゃれとは言えない。とりあえずあり合わせものを着ているといった感じだ。手には大量の本を持っており、中身は地図や各国の観光名所といったものばかり。中にはこの辺りの地図まである。
「合計18,720円です」
「はい。領収書ください」
客はお金を払いながら付け加える。
「金額の欄は空けておいてください」
青年は怪訝な顔を浮かべる。領収書を貰うということは会社か自営業の経費にするということであり、正しい金額をこちらが記入しなければいけないことはこの青年も知っている。後で客自身で金額を高く記入し経費を誤魔化しているに違いない。次第に腹が立ち青年は言う。
「あの、そういうのは出来かねます」
「どうしてです? ここでは出来ると聞いているんですが……」
「金額欄を空白にしてお渡しすることはいけないことでして」
「それは困ります」
「いや、しかしですね」
客はなかなか引き下がらない。青年も自分の意思で悪行に加担はしたくない。
「では店長に聞いてまいります」
「よろしく」
青年は店長の判断に委ねることにし、事務所に入り今までの経緯を話す。
「そうだね……やってあげなさい」
苦笑いを浮かべながらそう答える。
青年はそのあっさりとした返答に少し苛立ち正義感を振りかざす。何せ正が負けて悪がまかり通るのが面白くないのだ。
「どうして店長は断らないんです? それではあのお客さんの不正に加担してるようなものでは……」
「実はね、君はアルバイトを始めて日も浅いし勤務時間も短いからあまり分からないだろうけど、ここ数年ああいうお客さんが増えているんだよ」
店長はこう付け加える。
「仕方ないことなんだよ。彼らの星ではこっちの単位は通用しないからね」