1.概念
「やあ、おはよう」
その声で布団から青年は起き上がる。
「やあ、おはよう。……で、君はどうしてここに? 僕は一人暮らしのはずだし昨日はお酒も飲んでいない。誰も家には入れていない。昨日の記憶ははっきり覚えているよ」
「昨日? 昨日ってなんだい?」
「何を言っている、昨日は昨日さ」
「いや、俺が聞いているのは、昨日とはどういう意味かってことさ」
訳の分からない質問をしてくる。青年は面倒な奴が来たもんだと思いつつ、大雑把に説明をする。しかし、時計を使って説明してみたものの、そもそも時間という概念がこいつにはまったく通じないことが分かった。
「昨日とはだな……太陽が今見えるだろう? あれが登り始めて次第に沈んでいく。それが一日というわけさ。現時点から見ると次に太陽が登る日のことを明日という。で、明日から見ると今が昨日ってことになるのさ」
「ふーん、何となく分かったよ」
「分かってくれたかい? それが時の流れってやつさ」
「なるほど」
「まあ、それは良いとして君はどうしてここにいるんだい?」
「どうして? 理由なんかないさ」
「おいおい、僕の気持ちにもなってくれよ。朝起きたら横に君がいたんだ。理由の一つでも聞かないことには落ち着かないよ」
「気持ちってなんだい?」
また始まった。青年は呆れ気味に答える。
「人間の感情だよ」
青年は次に来るであろう質問がとっさによぎり説明を続ける。
「感情とはだな……人間の脳みそで感じる……つまり声に出さない言葉であったり、何と言ったら良いのか……」
言葉を遮るように男は言う。
「もういいよ、なるほど君達はどうやら目に見えない物であっても、まるで実際に存在するかのように名前を付けたがる習性があるようだね」
と、そこで男はふと何かを考える素振りを見せる。
「だったら、俺の名前も付けてくれないか?」
「そうだな、君はじゃあ……ユウレイと名付けるとしよう」