第六話 武器
「お・・ユ・! 」
うるさいなぁ・・夏休みなんだから寝ててもいいだろ
「おい!ユウ起きろ! 」
「昼まで寝かして・・・」
「リオ呼ぶぞ! 」
「おはようケン兄!良い朝だね! 」
ベットから飛び起きるとケン兄が呆れた顏をして立っていた。
そうだったここはゲームの中なんだった。
「リオとマリはもう起きて待ってるぞ。早くしないと本当にリオが乗り込んでくるぞ」
「準備OKだ、マイブラザー! 」
肩をすくめて部屋を出て行くケン兄の後に続いて俺も部屋を出る。
宿の外に出るとリオ姉とマリが待っていた。
「「遅い! 」」
「いや〜、毎度すいませんね」
俺が遅いんじゃなくてみんなが早いだけじゃないのだろうか。
「反省してないでしょ?」
なぜばれた!
「ほらさっさと武器買いに行こう」
ケン兄は良い笑顔でそう言うとマリを連れて先に歩き出してしまった。
待てぇぇい!俺をリオ姉と二人にしないでくれぇぇ!
ケン兄もちょっと怒ってるみたいだ。
それから武器屋に行くまで俺はずっとリオ姉の説教を聞く羽目になった。
まぁこれまで一度も時間を守ったことがない俺が悪いんだけどね。
これからも特に間に合わせようとは思わないけど。
武器屋は昨日ケン兄が行った北側に大きな店があったらしいのでそこに行って見ることにした。
ここは南側だから北側はちょうど反対なので広場を通って行くことにする。
広場は初日と変わらず緑に囲まれていて綺麗だったが、その時はリオ姉にお説教受けてたから綺麗もクソも無かった。
店に着く頃には俺が疲れ切っているのに対して、文句を言い切ったのかリオ姉はスッキリした表情をしていた。
ケン兄もマリも満足気な表情しやがって!
気を取り直してあらためて店の方を見るとさらにげんなりした。
まぁ当たり前っちゃ当たり前なんだが、そこには長蛇の列が出来ていた。
みんなも見るからに嫌そうな顔をしていた。
しかし、並ばないわけにもいかないので仕方なく並ぼうと思って列に向かおうとすると、武器屋の隣に細い横道がある。
目を凝らすと横道にある暗がりの中で何かが光った気がした。
気になって横道に入ってみると、さっきの光がチラチラと道の真ん中から光っている。
奥に進むとそこには・・・
「お前かよ! 」
そこにはひょろ長メガネの男が立っていた。
こいつとあった後すぐにみんなを呼んだ。
「やっぱりドクターも来てたのか」
「久しぶり、ドクター」
「久しぶり〜」
「やっぱり君たちも来てると思ったよ、四重奏」
「それで呼ぶのはやめてくれよ」
ケン兄はそう言いながら親しそうにその男と喋っている。
そう、ドクターと呼ばれるこのひょろメガネとは兄弟全員が前から知り合いだ。
と言ってもユリみたいに現実で知り合いなのではなく、ゲーム内での知り合いだ。
いや、知り合いどころの話ではない。
この男、俺たちがやるゲームには必ずいるのだ。
どんなジャンルのゲームでも必ず俺たちに会いに来るのでゲーム内だけなら5年以上の付き合いがある。
ドクターという名前から回復役や薬師のようなものを想像するかもしれないが全く違う。
この男、ひょろ長のくせにRPGでは毎回鍛冶士をして、装備品を作っている。
しかも、鍛冶士のくせにやたら強くて、ボス討伐の団体に混じってみたり、最前線のモンスター乱獲したりといろいろおかしいやつだ。
かと言って生産の方が疎かになっているのかと言うとそんなことはない。
それどころかこれまでやって来たゲームでこいつ以上の鍛冶士を見たことはない。
ドクターが作った武器や防具は店頭に並べたら1時間も置いておかれることはないだろう。
そんな生産職最強の男に俺たちは気に入られているようで、どのゲームでも最高品質の装備を提供してくれている。
ただこいつ、なぜか俺にだけ呪いの装備渡して来たり、実験とか言ってイロモノ武器の試験者にされたり、他の兄弟と扱いが違う。
こういうことをされているからか、明らかに年上だが敬意を払う気は一切ない。
これで腕が悪かったらとっくに縁を切ってる。
で、今回も居るだろうなとは思っていたが、開始二日目で会うとは・・
「なぁ、お前なんでこんなところに居たんだ? 」
「なぜかって、そりゃあ客を見分けるためさ」
「客も何もまだ商品なんてないだろ? 」
「ふっふっふ、ユウ、君は僕を甘く見過ぎだよ・・・」
「まさか・・・! 」
「そのまさかさ! 」
そう言って突き出したドクターの手の上には明らかに初期の武器とは思えないプレイヤーメイドの武器があった。
その武器の形状は日本刀。
柄は灰色、鍔は無く代わりに動物の毛と思われる灰色の獣毛がついていて、刃の部分は普通のものより少し横幅大きくなっているように見える。
「おい、これどうしたんだよ!?」
「そりゃあもちろん僕が作ったのさ!」
俺たちは呆れて何も言えないでいた。
「でもどうやって?」
「え?そんなのは簡単だよ。あの広場で運営の話が終わってからすぐにそこの武器屋で適当な剣を買って、フィールドで魔物を狩って、そのまま鍛冶士のNPCのところで工房を借りて作ったのさ」
今度こそ全員絶句した。
「でも『鍛冶』スキルのレベルが低すぎてそんなものいきなり作れないだろ!」
「いやぁ〜、このゲーム意外に良心的でねぇ〜。プレイヤースキルでけっこういけちゃうんだよ」
そんなこと出来るのはお前だけだよ!と思ったのは俺だけじゃないと思う。
「で、さっき客を選ぶって言ってたけど、どういうやつなら売るんだ? 」
「そうだねぇ、村長やアヤくんレベルの実力がないと売れないね」
「そんな人間やめたような奴がホイホイいるわけないだろ!というかその二人このゲームにいるのかよ? 」
「んー、たぶんいると思うよ」
「会ったのか? 」
「会ってはいないけど、掲示板に名前があったからいるはずだよ」
「掲示板? 」
「メニュー画面にあるでしょ? 」
「? 」
メニュー画面を見てみると確かに掲示板のタブがあった。
「ネットが使えない代わりに運営が特別に用意したんだろうね」
軽く読んでみると確かに村長とアヤの名前があった。
二人とも初日からすでにフィールドに出て、フィールドの情報を掲示板にあげているようだ。
それから俺たちは情報交換をした。
南のフィールドにいるのは狼、ホーンラビット、ゴブリンの三種類らしい。どれも話にならない位弱いから気にしなくてもいいと言われた。
それからスキルは特定の行動をするとそれに伴ったスキルが取得できるという考えで正解らしい。
ドクターは剣で魔物と戦った時に『刀剣』と『回避』、刀を作る時に『鍛冶』のスキルを取得したらしい。
お互い話終わって、ドクターと分かれて表の武器屋に並ぼうとすると、
「君たちどこへ行くんだい? 」
「そりゃあ表の武器屋で武器買うんだよ。武器無しだとスキル取得出来ないし」
「いやいや、武器ならあるじゃないか」
「どこに? 」
するとドクターは自分の握っている剣を指差した。
「え?だってそれは村長レベルじゃなきゃダメなんだろ? 」
「いやいや、君たちも十分そのレベルだから」
「俺たちはまだ人間やめてねぇよ」
確かに俺たちは最強クラスだと思っているがそれは人類の中でだ。人外と比べられても困る。
「君たちも大概だろ」
ドクターは呆れたように言ってきたがお前には言われたくない。
「それでどうする?買うかい? 」
「そりゃあ買わせてくれるんなら買うけど、俺たちに買える値段なのか? 」
「無理だろうね」
「よし、帰ろう!」
「ちょっと待ったぁ!そこでだ!
これをタダで譲るからその代わり・・・」
「やっぱ帰ろう! 」
「待ってって!その代わり魔物を狩ってきてくれ!魔物からとれた素材で全員分の装備を作るから! 」
「・・・何企んでる? 」
「いやいや、善意で言ってるんじゃないか」
「本当は? 」
「本当に何も企んでないよ。ただこれからも僕のところで装備を作らして欲しいってだけさ」
「なぁ、なんで昔から俺たちや村長に対してはそんなに優遇してくれるんだ? 」
「そりゃあ職人として自分の作品は相応の実力を持った人に使ってもらいたいからね」
「そんなもんか? 」
「そんなもんだよ」
んー、どうするべきか・・・
俺たちが会話しているのを眺めていたケン兄たちに聞いてみた。
「どうする? 」
するとなぜかみんな笑顔で
「ユウ頑張れ! 」
「ユウありがとう! 」
「さすがお兄ちゃん! 」
えっ、どういうこと?
すると目の前にトレード画面が浮き出た。
ドクターの方を見るとこっちも笑顔で刀をこっちに差し出していた。
そこでやっと理解した。
「狩るの俺かよ! 」
すると全員笑顔で頷く。
「別に俺じゃなくても・・・」
俺が言い終わる前にリオ姉が笑顔で、
「行け」
「ハイ」
俺は表示されたトレード画面に【Yes】で応えた。
そっか、最初から俺に選択権は無かったんだ。
俺はデスゲームにも関わらず始めての狩りをソロで行くことになった。