第五話 決意
「みんなどういう戦い方がしたい? 」
「剣で無双! 」
「魔法で焼却! 」
俺とリオ姉の叫びに苦笑いを浮かべるケン兄。
俺はこういうゲームでは剣を使ってる。
だって剣は男のロマンでしょ!
リオ姉もだいたい魔法職で、炎魔法が大好きだ。
本人曰く、敵を塵にするのが癖になるらしい。
ナニコノアネコワイ
「マリはどうだ? 」
マリは先ほどからウンウン言いながら悩んでいるようだ。
「んー、今回は弓でいってみる」
マリは結構いろいろな武器を使っているが、短剣やライトボウガンなどの身軽な装備を使うことが多い。
今回も弓は弓でも短弓などの軽いものになるだろう。
「マリは後衛か・・・、それじゃあ今回俺は前衛をやろうかな」
ケン兄はいつもみんなに合わせて自分の武器を変えてプレイしてくれているので、いろいろな武器を使える。格闘戦から魔法使いまでなんでもござれなケン兄は器用貧乏になってしまっている、とか思うだろう。
それが違うんだ、ケン兄は俺達の中でも別格なんだよ。
あの人はVRゲームに関しては天才的でどの武器も少し使えばすぐに戦い方を覚え、高いプレイヤースキルを発揮する。
たぶん俺達の中でケン兄と同じ武器を使って一対一で勝てるやつはいない。
「前衛ならタンクでもやろうかな。
死にたくないしね」
たぶんこんな事を言っているがもし俺たちが危険になってたらケン兄は俺達の盾になって逃がすつもりだろう。
まぁそう簡単に危険に陥るとは思わないけどね。
「じゃあケン兄と俺が前衛で、リオ姉とマリが後衛と言うことで。」
全員が頷くと、次の話題に移った。
「次は各自スキル構成を決めようと思ったんだが・・・」
全員なんとも言えない表情をしていた。
それもそのはずで俺達の取得可能スキルが
感覚 lv1
だけだった。
「とりあえず、取っておくしかないんじゃない?」
リオ姉の言葉に頷きながら全員が『感覚』を取得した。
特に目立った変化は感じられなかった。
それからはグダグダといろいろ話をした。
このゲームの話や明日からの話、現実の話など話は尽きなかった。
とりあえず明日については装備を買いに行き、そのまま軽くフィールドに出て見ると言うことになった。
「そろそろお腹減って来たね」
「そうだな〜、じゃあ飯を食いに行こうか」
「「おお〜! 」」
俺とマリの掛け声に上の二人は微笑んでいた。
宿を出ると、表の大通りは昼間とは全然違っていた。
昼間は町を駆け回っていたプレイヤー達も、少しは落ち着いたのか歩きながらプレイヤー同士で喋っていたり、料理屋に入っていくプレイヤーも見られる。
それにプレイヤーだけでなく、町の雰囲気も変わっていた。
夜になって暗くなった町には、お店の明かりや街灯などの暖色の明かりに包まれて幻想的な雰囲気が漂っている。
「俺が昼間見つけた店で行きたいところがあるんだけど・・・」
「うん、当てもないしそこでいいんじゃない? 」
「じゃあユウ、案内してくれ」
「YES! 」
ガッツポーズをしながら三人を先導して前を歩く。
今俺達の宿があるのは町の南側で俺が昼間に行った方向は東側だから、横道を通って東の大通りに出る。
40分ほどで昼間に良い匂いを漂わせていたお店に到着した。
その頃にはみんなお腹がすいて、特にマリなんかは見るからに不機嫌になっている。
お店の中に入るとNPCのウェイトレスに席に案内されようやく一息つけた。
「ユウ兄、ここは遠過ぎるよ! 」
「いやー、昼間にここの前通ってからどうしてもここ来たくて・・・」
「これで不味かったら怒るからね」
マリが怒りながらメニューに顔をうずめてしまった。
我が妹ながら怒った顔も可愛い。
いや別にシスコンではないからな!
メニューにある料理はどれもファミレスにありそうな料理ばかりで、ちょっと萎えた。
あんだけ苦労してファミレスかよ・・・
まぁ現実と同じような料理ばかりで安心はした。
ここで変にファンタジーな料理出されて不味かったりしたら、マリの逆鱗に触れて明日は後ろからの放たれる矢にビクビクしなければならなかっただろう。
全員がウェイトレスに料理を頼み終わるとすぐに料理が来た。
ここはゲーム仕様の良いところだろう。
料理についてだが見た目通りまんまファミレス!って感じの味だったが、お腹が空いてたからか美味しくいただけました。
妹様も笑顔でモシャモシャ食ってたから大丈夫だろう。
ちなみに別にファミレスの料理は嫌いじゃないよ、どちらかというと好きなくらいだ。
全員が食べ終わったところで俺がお支払いさせていただいた。
ここまで歩かせてしかもファミレス料理にお金を払わせるほどひどいやつではない。
俺達は帰り道を喋りながら宿への道を歩いていた。
その時、俺の視界に金色の髪が移る。
振り返るとそこには俺と同じように驚きの表情を浮かべた美少女がこちらを振り返っていた。
そして
「「あああああああ〜〜〜〜! 」」
二人の絶叫が夜の町に響き渡った。
俺たちは今宿で金髪の美少女と対面していた。
この金髪の現実での名前は神崎由梨。
高校で俺と同じクラスの同級生だ。
前にやっていたゲームで親しくなってリアルの話をしたりしていたんだが、余りに学校の共通点が多いから確かめてみたらなんと同じクラスだったと言う運命的な出会いをしていたりした相手だ。
まぁ相手は学校でトップ3に入る美少女だから、ただの廃人ゲーマーじゃ運命も何もないけどな。
そんなことがあってからリアルでも話すようになっていたんだが、彼女は確かこのゲームは手に入れられなかったはずなんだが・・・
「ユリ、お前このゲーム手に入んなかったんじゃないのか? 」
「そうだったんだけどサービス開始日になぜか家に送られて来て・・・」
「誰から送られて来たんだ? 」
「それが差出人不明でして・・・」
「おい! 」
「いや、だってこんな面白そうなゲームならやりたくなるでしょ! 」
「普通、そもそも宛先不明の荷物をためらいなく開けねぇよ・・・」
「それから慌ててログインして・・・」
「デスゲームに巻き込まれたと」
「・・・テヘッ☆」
頭がいたくなってきた・・・
可愛いから許すけど。
可愛いは正義!
あれ?なんかおかしくないか?
「なあユリ、お前がログインしたの何時だ? 」
「2時ごろだったと思うよ。それがどうしたの? 」
おかしい・・・
俺たちがログインしたのは12時
そしてすぐにアナウンスがあってデスゲームが開始された。
2時から始めたユリが巻き込まれてるのはおかしい。
それにそもそも開始当日だからって始まってすぐに2万人以上が集まるわけがない。
このことをみんなに話すと
「んー、確かにおかしいな」
「そうだね〜」
「おかしいですね」
ちなみに俺の兄弟とユリは面識はない。
まぁユリは前のゲームでも有名だったケン兄達の事は知っているけど。
「でも考えてもわからないんなら考えても仕方ないよ」
さすが妹様!諦めるのが早い!
でも確かにわからないことをずっと考えていても生産的ではない。
「とりあえずユリ、俺とフレンドになろう」
「わかった。送るね」
フレンド登録していれば、そのフレンドと連絡をとることが出来る。
ユリはリオ姉達ともフレンド登録していた。
もちろん俺達兄弟はお互いすでに登録済みだ。
「じゃあ私他のところで宿取ってるから帰りますね」
「おう、なんかあったら連絡してくれ」
「わかった。お休みなさい」
するとリオ姉が俺をつついてきた。
(ちょっと一人で帰らせるつもり? )
(え、別に街中なら安全だろ? )
(そういう問題じゃないでしょ! 全くこういう時男は送って行くもんでしょ! )
(えー、めんどくさ・・・)
その瞬間リオ姉の顔から表情が消えた。
(何か? )
(い、いえ、送らせていただきます)
あの顔の時に逆らうと病院行きになるのは体験済みだ。
リオ姉とのOHANASIが終わった時、ちょうどユリが部屋から出て行こうとしていた。
「ユリ! やっぱり宿まで送るよ! 」
「え?別に町の中だし大丈夫だよ? 」
「いや、送らせてくれ! どうしても送りたいんだ! 」
そう言うとユリはちょっと頬を染めながら
「じゃあ、お願いしようかな」
と言ってきた。
何この子可愛い。
俺の後ろでニヤついてるバカ姉妹はあとで締める。
いや、リオ姉は無理だから、マリにはくすぐりの刑だ。
あと、ケン兄やめて!その慈愛に満ちた目を向けられるとなんか恥ずかしい!
その場の雰囲気から逃げるようにユリを連れて宿の外に出た。
まだ明るい大通りを二人で話をしながら歩いた。
他愛のない話をしながらふと思った。
ユリはデスゲームについてどう思っているのだろうか?
俺たち兄弟は根っからのゲーム廃人で実力もあるから、この状況に不安を覚えないがユリはどうなんだろう?
ユリも前のゲームでは上位のプレイヤーだったが、それでもゲームに命をかけてる廃人どもとは違うし、現実の学校生活も充実している彼女が、俺たち四人と違ってたった一人でデスゲームに巻き込まれてしまった彼女は不安じゃないのだろうか?
「なぁ、ユリ・・・」
「んー、何〜? 」
「お前、無理してないか? 」
「えっ・・・」
立ち止まった俺にユリが驚いた顔をして振り返った。
「こんなゲームに巻き込まれて不安じゃないのか?」
「なんで・・・、そんなこと言っちゃうの・・・」
それだけ言うとユリは俯いて肩を震わせた。
「なんでそんなこと言うの!ずっと我慢してたのに!泣いちゃいけないって!これはゲームなんだって自分に言い聞かせて我慢してきたのに!
なんで・・・今そんな優しいこと言っちゃうの・・・」
それだけ言うとユリはその場で泣き始めてしまう。
今まで溜まっていたものを吐き出すように泣き出した。
たぶん彼女は今日一日ずっと耐えてきたんだろう。
いきなりデスゲームに巻き込まれて、知り合いもいない中一人で、歯を食いしばって、必死に耐えてきたんだろう。
俺はどうすればいいかわからずユリの近くでアタフタしていると、ユリが俺の胸に寄りかかってきた。
びっくりしてアワアワしてしまったが、意を決してユリの震えている肩を軽く抱いた。
いつも明るいユリからしたら想像出来ない姿に俺は決意した。
「ユリ、大丈夫だ。俺たちが絶対こんなゲームクリアしてやるから」
そう言うとユリは小さく頷きまた泣きはじめた。
しばらくして泣き止むと顔を真っ赤にしたユリが
「その・・・ありがと」
「い、いや全然大丈夫」
緊張して声が上ずってしまった。
大丈夫ってなんだよ!それどころか本当は嬉しくてたまらないくせに!
どもるとか童貞かよ!
いや、童貞だったわ。
微妙な雰囲気が二人の間に流れた。
「じゃ、じゃあここまででいいから!また連絡するね! 」
「お、おう!気をつけてな」
そう言うとユリは猛ダッシュで横道に消えて行った。
残った俺はこんなにリアルな五感を再現した運営に感謝した。
部屋に戻ると女性陣は部屋に戻ったらしく、ケン兄がベットに寝そべっていた。
「おかえり」
「ん、ただいま」
ケン兄が起き上がって俺の顔を見ると
「何かあった? 」
「いや、なんで? 」
「なんか、良い表情になってたからさ」
さっきのことを思い出した俺は気恥ずかしくなって反対側のベッドに潜り込む。
それをみたケン兄が立ち上がって電気を消しに行った。
「なぁ、ケン兄・・・」
「んー、なんだ? 」
「絶対このゲーム、クリアしようぜ」
するとケン兄は全て見透かしたような優しい声で
「そうだな」
と言って、電気を消した。
そのまま俺は意識を手放した。