第二話 デスゲーム
ログインすると、目の前に選択肢が表示された。
【本体に保存されているアバターを使用しますか?】
【Yes/No】
ゲームのアバターを設定する時、大体は本体にあらかじめ設定しておいたものを使う。
俺のアバターは、本体をベースとして読み込ませた自分の顔からほとんど変えていない。
あまりいじりすぎると顔に違和感が出るし、アバターをいちいち作り直すのは面倒くさい。
それでもさすがにオンラインゲームでそのままってわけにもいかないので、髪の色は白に近い銀、いわゆる白銀にしている。
髪の色が違うだけで意外とわからないらしい。
俺は特に迷わず【Yes】を選ぶと、選択肢が消え、視界が白く塗り潰されていく。
あれ? 俺まだ職業とかチュートリアル受けてないんだけど・・・
そのまま視界は白で覆い尽くされ、意識が遠のいて行った。
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気がついて始めに感じたのは耳に入る喧騒だった。
目を開けて辺りを見回すと所狭しとたくさんのプレイヤーがひしめきあっている。
周りはプレイヤーだらけで視界が悪く、どんな場所にいるかはわからないが、一定の場所にたくさんのプレイヤーが詰め込まれているのはわかる。
唯一、視界が遮られていない上を見上げると、空にはVRゲームとは思えないほど綺麗な青空が広がっていた。
周りの状況からして、すでにゲームは始まっているのだろう。
新しいゲームを始めた時の高揚感が全身を満たしていく。
さっそく、周りのプレイヤーから情報収集を始めようとすると、空からポーンという機会音が聞こえてきた。
何だ?
俺は音のしたと思われる空を再び見上げる。
他のプレイヤーも、全員空を見上げた。
しかし、空には相変わらず青い空が広がっていてなにも変化は無い。
と、思った次の瞬間、
「26,374名のプレイヤーの皆様、これからMyth Worldのチュートリアルを始めます」
という女性の機会音が空に響いた。
さっきまで騒がしかったプレイヤー達も皆黙って空を見上げていた。
しかし、その顔にはさっきまで騒いでいた時よりもずっとワクワクとした表情が張り付いている。
まぁ、俺も自分でもわかる位ニヤついてしまっているけども。
間をおいて先ほどと同じ無機質な声が響いた。
「まずチュートリアルと言いましたが、システムや操作方法については、メニュー画面から説明書を各自で読んでおいてください」
おい! いきなりこっちに丸投げかい!
まぁ別に俺は困らないけどね!
「今回このチュートリアルではこのゲームにとって、最も重要な要素となる最初のイベントについての説明となります。」
「「「「「おお~~」」」」
ほとんどのプレイヤーが満面の笑みを浮かべながら興奮を隠そうともせず周りの人と喜びを分かち合っている。
俺は知り合いがいなかったからまた一人でニヤついていた。
ぼっちつらい・・・
そして運営の次の言葉をいまかいまかと待っていると、また淡々と喋り始めた。
「このゲームはデスゲームの仕様になっております」
は?
たぶん皆そう思ったと思う。
デスゲームなんて小説の中でしか聞いたことないぞ・・・
「今、ほとんどのプレイヤーの方はこのことを信じていらっしゃらないと思います」
「そこで今から映像を見せます。
それを元に信じる、信じないは皆様にお任せします」
そう言って俺たちの上空に映し出された映像は驚愕のものだった。
その映像には現実世界の状況が映し出されていた。
救急車によって運び出されるプレイヤーの生身の体や泣き崩れる親の姿、ニュースによって繰り返される「festoon」を外すなという警告、
死体と思われる少年の姿など、そこには現実世界が混乱する様子が映し出されている。
映像が5分ほど流れた頃から、ぽつぽつと鳴き声や、怒鳴り声が出始めた。
そして映像が終わる頃には、混沌とした状態になっていた。
泣き崩れる人、周りに怒声を散らしている人、呆然としてぼーっと突っ立てる人、顔に笑みを浮かべながら下を向いている人。
そして映像が終わり、なにも無かったかのようにまた空から声が降ってきた。
「最後にこの世界から出る方法ですが、このゲームをクリアをすることです」
「クリアについてはこちらがあらかじめ設定しておいた条件を達成すればクリアとします」
「しかしクリアは一つだけではありません。様々な方法がありますが、ここではその内の一つだけご紹介します」
「それは“神”を殺すことです」
「以上でチュートリアルを終了いたします」
「それではみなさん、これからのゲームライフを楽しんでください」
そして、それから空に声が響くことは無かった。
チュートリアルが終わると外に出れるようになったようで、立ち直りの早いプレイヤーや、そもそもこの状況をなんとも思っていない人たちはさっさと外に出て行ってしまった。
残ったのはまだ立ち直れない人や、仲間を見つけようとしている人達だろう。
人が少なくなって自分のいる場所が把握出来た。
闘技場のような丸い広場で、地面は人工芝のような草が生えていて、周りは黒いレンガで出来た壁が周りを覆っている。
四方の壁には扉があり、そこから何処かに繋がっているようだ。
そんな中で俺はまだ最初の場所から動いていなかった。
別にこの状況が怖いわけでもなければ、悲しみに打ちひしがれているわけでもない。
それどころか、気分はこれまでになく高揚していた。
デスゲームと聞かされて驚いたし、あの映像をみて本当にデスゲームが始まったことも実感した。
だけど恐怖よりも先に、俺はゲームに閉じ込められたという非日常に喜びを感じていた。
誰しもゲームの中に入れたらいいな、と一度は考えたはずだ。
それが今現実となっている。
俺は無意識に笑みを浮かべてしまう。
ここにずっといてもしょうがない、興奮を抑えながらこれまで幾つものゲームをクリアしてきた最高の仲間を探し始める。
ここから、俺のデスゲームがはじまった。