第一話 プロローグ
今、俺たち約3万人のプレイヤーは、赤黒く染まった空を見上げている。
空からはシステムの無機質な声が俺たちプレイヤーに淡々とこの“ゲーム”についての説明をしていた。
その機械の声が告げる残酷な現実に、あるものは呆然と空を眺め、またあるものは地面に崩れ落ち泣いている。
そんな中で俺は薄く笑った。
“楽しい”
こんな絶望的な状況の中で我ながら頭おかしいんじゃないかとも思うが、たしかに俺はこの状況を楽しんでいた。
日々のつまらない日常が終わり、ゲームの世界に閉じ込められるという非日常がいやでも気持ちを昂らせる。
そんな不謹慎な気持ちを抱いていると説明が終わり、システムの電子音が止むと元の青い空に戻った。
そして俺たち総勢3万人のプレイヤーによるデスゲームが始まった。
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俺が閉じ込められたゲームの名前は“Myth World Online”というコスモス社が出したVRMMORPGだ。
コスモス社はVRゲームが開発されて販売され始めた2043年、今から40年ほど前にゲーム業界に参入した企業の一つだ。
もともと電子機器関連の事業において国内トップクラスの規模を誇っていたことから、新規に参入した企業の中では頭一つ抜き出ていた。
新規参入のため古参のゲーム会社には一歩遅れる形にはなったが、わずか数年でVRゲームハード「festoon」が発売されることになる。
「festoon」は他社で発売されてきた無骨なものと違って見た目は清潔感のある白、形状もスリムになりつけたまま歩くことも可能にした。
発売当時はその見た目と軽さにより、圧倒的人気を誇っていた。だがそれに比べ、専用ソフトはヒット作に恵まれず、その上最近では他の会社も新しいハードを出し始め、人気は下火になり名前を聞くことは少なくなっていた。
しかし、今回コスモス社初のMMORPGが発売されることになり、また注目を集め始めた。
なぜいきなり注目を集めたかというと、ネットで公開されたPVが全国のゲーマーに衝撃を与えたからだ。
その内容はこれまでのVR事情をくつがえすほどだった。
これまでのゲームとは比べものにならないほどリアルに近く、なおかつ世界観を崩さない綺麗なグラフィック、さらに広大なフィールド、しかし一番の魅力は別のところにある。
「中二病オンライン」
これはこのゲームのネットでの呼ばれ方である。
そのPVの映像の中には神話にちなんだ武器を持ったプレイヤーが、光り輝くエフェクトを纏った武器を振り回し、敵をなぎ倒しているものだった。
このことからついたアダ名が「中二病オンライン」。
しかしそこには一度は憧れた幻想の世界が広がっていた。
運営側は前評判を鑑みて、本サービスにも関わらず、プレイ権利をチケットとして、先着3万名に限定した。
そのせいでチケット販売店には当日長蛇の列ができ、発売開始からわずか3時間で初回生産分の3万人分のチケットが完売してしまうほどだ。
そしてその3万人の中に「俺たち」は奇跡的にはいれた。
我が榎本家の6人家族で4人兄弟だ。
大手ゲーム会社に勤める父の浩二
病院でナースをやっている母の恵美
そして大学2年生で長男の健斗
高校3年生で長女の莉緒
中学2年生の次女の真里
そして、高校2年生次男こと俺、榎本優介の6人がおれの家族だ。
うちの家族は俗に言うゲーム一家というもので、家族全員ゲーム大好きで暇があればゲームをやっている。
その中でも俺たち兄弟は小さい頃からVRゲームと一緒に育ってきたと言っても差し支えないほど数々のVRゲームをやってきていた。
さらにオンラインのゲームに関しては俺たち兄弟はちょっとした有名人と言えるほどだった。
オンラインで俺たちは協力出来るものは4人で進めて行き、いつもパーティーを組んでいたんだが、幼い頃から数々のゲームをこなしてきた俺たちは高いプレイヤースキルと経験を生かしてどのゲームでもトップクラスにいた。
どのゲームでもプレイヤー名やアバターを変えなかったため、俺たち4兄弟は「四重奏」《カルテット》なんて小っ恥ずかしい二つ名までつけられるほどだった。
そして今回のような事態を我が一家が見逃すわけもなく、父の伝手をフル活用しなんとか家族分のソフトを揃えることが出来た。
そして本サービス開始当日、親は仕事で入っていなかったが、俺たちは夏休みだったので
各自自分の部屋で開始時間をいまかいまかとベットで横になって待っていた。
そしてとうとう開始時間12時ジャストに、
「ログイン Myth World !」
俺はデスゲームが始まるとも知らずに意識を神々の世界へと落として行った。