最終章
『何で、俺がそこまで責任を取らなきゃ、いけないんだか』
「神田先生。今年も頼みますよ」
「ええ、任せてくださいよ」
ベテラン教師になった俺は、また学年主任と言う大役を任された。面倒くさいが、仕方ない。金の為だったら、楽勝だ。一番楽な方法で、乗り切ればいいだけだ……。
「このクラスを持つことになった神田だ。一年間よろしく」
クラス全体を見渡す。よし、問題児はいなそうだ。ただ……大人しそうな奴がいる。はぁ……こいつらは面倒くさいから嫌いだ。
あーあ、めんどくせぇ……。
「先生、あの相談が……」
今のクラスが決まって二か月目。どう見ても、大人しい奴が話しかけてきた。どうせ、こいつらが言うことは決まっている。いじめられただの、何か言われたとか。全く、馬鹿らしい。
「先生は今、忙しいんだ」
「でも、あの……」
「忙しいって言っただろ」
静かにそう告げると、諦めたのかすぐに、どこかに行ってしまった。でも、まさかこの様子を見られているとは思わなかった……。
「神田先生」
「何だ?」
放課後の教室、クラスの中で、ほかの奴とは一風変わった中沢が話しかけてきた。
「この前、新田の相談、聞いてませんでしたよね?」
この前のあの様子を見られていたのか……。誰もいないと思っていたのに。こいつは意味が分からない。たかが、これだけの為に放課後になっても残っていたのか。
「ああ、聞いてないな。別に、俺が相手にしたところで、変わらない話だ」
そう、全く変わらない話だ。どうせ、馬鹿げた相談だろう。
「それを解決するのが、教師というものでは?」
……昔はそういうのを目指してのかもしれない。だが、もうどうでもいい。深く関わったところで、モンスターペアレント化した親に文句を言われるだけだ。
「違うな。自分で解決するのが第一だ。昔もそう言う奴を見た」
そう言った瞬間、中沢の目の色が変わった。まさか!中沢千恵のことを知っているわけでは無いだろう。
中沢千恵、昔、自殺した少女。いじめられていたことは事実として知っていたわけだが、特に注意はしなかった。相談もされたが、解決などしていない。
自殺したことも、別に責任感を感じていない。そうなる自分が悪いだけだろう。
「あなたは……教師失格だ」
そんなことを思い出していると、中沢が唐突に言った。何を言っているんだ?自分が一番得をし、効率よくなるように、上手く逃げているだけだ。
「そんなことだから、千恵ちゃんも……。お前のせいで……」
千恵ちゃん?まさか、まさか、中沢千恵のことじゃ……。
「お前は一番恨んでいるよ……。千恵ちゃんのことを覚えていた。それに、知っていたのに助けなかった……。お前には最後のチャンスはやらない」
「お、おい中沢?」
「……Remeber Me」
こいつは、おかしくなかったのだろうか?最後のチャンス?何を言っているんだろう?恐ろしくなり、一歩下がって、教室を見渡した。
「あ……あ……」
教室の全ての椅子に、死んだはずの中沢千恵が座っていた。こちらを憎々しげに見つめている。逃げなければ。咄嗟にそう思い、教室のドアに駆け寄ったが、鍵がかかっていて、逃げれない。
どうすれば……。そこでハッとした。窓が開いている!あそこに逃げれば!そう思い、飛び降りた。学校の最上階だとは忘れて……。
グシャ!人間のものと分かる肉の塊が、潰れた音が遠くに響いた。
「Remeber Me……」
窓の外から覗くと、神田が死んでいた。その光景を見て、笑顔が零れる。
「素直に謝っておけばいいものの……そうしたら、ちゃんと周りが見えていたのにね」
圭太はクスクスと笑った。ああ、これでやっと千恵ちゃんの傍に行ける。そう思うと、嬉しくて早く行きたくなった。
「今すぐ行くよ。……千恵ちゃん」