第二章
『お前なんか、海で溺れて死ねばいい』
「今年の夏休みさぁ、遠いとこに出かけない?」
「うん。そうしよっか」
「やったー!」
私の彼氏、圭太はいつも近い場所ばかりで、デートしてたから、そろそろ飽きてたんだよね……。それが今年の夏、遠くへ行ける!私は嬉しくなった。
「どこ行きたい?」
圭太が優しく聞いてくれる。私は、考える。海とか行きたいかも。
「海!」
「そっか。じゃあ、いい海見つけておくね」
「うん!」
こんな良くできた彼氏がなぜ、私を好きになったのだろう……?いつも疑問に思うが、ワザと聞かないことにしている。もし、今からでも別れを告げられたら嫌だし。
「美玖は、いいよねぇ。あんなかっこいい彼氏がと海に行けるんでしょ?」
「いいでしょ?」
ワザと友達に向かって、自慢してみせる。そう。私はこの強運を楽しめばいいのだ。有効活用すればいいだけ……。
結局、圭太が選んだのは人も多くて、有名な海だった。圭太は、臨海学校で来ている学校の子たちもいると言っていた。
私は半分聞き流していた。臨海学校なんか、関係ない。私と圭太さえ上手く行けばそれでいいんだから……。
「あーっ、どうしよう!?」
デートの前日、明日着る服装を考え中。水着は新しいの買ったからいいけど。圭太は何でも褒めてくれるから、いつもみたいな服でいいか。
行く予定の海は、なぜか知っている気がするのだ。なぜだろう?……考えても分からない。まぁ、大丈夫だろう。それほど、重要なことでも無さそうだし……。
「圭太!」
「美玖、待った?」
「大丈夫!それより、さっさと海行こう?」
「……そうだね」
圭太は静かに微笑んだ。私はいつもの笑みだと思った。本当は分かっていたら、間違ってでも、安心はしなかったと思う。
「ここ、人少ないよ」
「ホントだ!」
海に来たものの、人が多く、とても動けるような状態では無かった。そこで、私の彼氏の圭太が探してくれたのだ。
「すごーい!こんな場所あるんだね。早く泳ごう!」
「うん」
少し向こうからは、人も見えるので、安心して泳ぐことが出来た(心配することは無いのだが)。そして、少し泳いだ後、もう少し先に進むと、
(!?)
ヤバい、海藻に足が絡まってしまったらしい。息が出来ない。でも、大丈夫。圭太が助けてくれるから……。
?何で、何で、助けてくれないの?圭太!
「大丈夫!?」
やっと、気付いたのか私を抱き起こしてくれた。私はこの時、一番圭太に腹が立った。何で早く助けてくれなかったのよ!
「もっと、早く私を助けてくれなかったの!?」
圭太を責めると、圭太は見たことも無い、冷たい表情をした。私はその表情に、ギクリとしつつ、責め続けた。
「気付かなかったの!?どういうことよ!」
「……美玖だって、過去に同じことをしたよね?しかも、その時は助けなかった……」
「な、何言ってるの?」
圭太が怖い。いつもの優しさはどこかに行ってしまった。
「思い出せないようだね……。仕方ないな、最後のチャンスをあげるよ」
「最後の……チャンス?」
圭太は何を言っているのだろう。私は理解が出来なかった。
「中沢千恵って、憶えてるかい?」
「中沢……?ああ、アイツか。何、圭太?親戚かなんか?でも、大丈夫よ。圭太があんな暗いヤツを気にする必要は無いのよ。……ああ、確か、海で溺れさせたこともあったかな?」
圭太の瞳が、赤くなっていくのが分かる。
「暗いヤツ……?よく、そんなことが言えるな……。まぁ、いいさ。どうせ、この後、身を持って実感するよ」
「何言ってるの……?」
圭太は、意味が分からない。中沢千恵の知り合いなのか?……考えても分からなかったので、そのまま海で逃げるように泳いでると、今度は海藻が自ら、足に絡まってきた。
「た……助け……」
「俺が助けるとでも思った?素直に、反省したら良かったのに……」
「圭太……」
「Remeber Me……」
ズル…ズル…。美玖は海に引きずり込まれて行く。圭太は黙って、その様子を見ている。やがて、ブクブクと音がしたかと思うと、美玖は沈んでいった。
あとには、血が浮かび、海の青色が赤く染まった。圭太はその様子をただ眺めるだけだった。
「Remeber Me……。千恵ちゃん、次は……アイツだね……」
圭太は、次の場所へと向かった。