第一章
『お前なんか、太って太って死ねばいい』
私は好きな人が出来た。最近引っ越してきた、中沢圭太くん。すごくイケメンだから、女子たちみんなが狙ってるけど、一番進んでるのは、絶対私だ。
だって、中沢くんの横の席だから。
「ねぇ、中沢くんってさ~、どんな女の子がタイプなの?」
「う~ん、そうだな……。少しふっくらした子がいいな」
「え、そうなんだ」
ふっくらした子とか……ショック。私は細いことだけが取り柄だったのに。男子って細い娘の方が好きなんじゃないの?中沢くん、少し変わってるなぁ。
「うん。だから、島本さんがふっくらしたら、丁度いい感じかな?」
「ありがとう。参考にするね」
やっぱり私が一番好きなんだ。
「うわぁ~、理恵今日のお弁当多くない?」
「そう?」
昼食の時間、今までの量の二倍もあるお弁当。当然、中沢くんの好みの女の子になろうと努力中。この情報はまだ誰にも教えていないから、友達は不思議そうな顔で見ている。
「そんなに食べたら、太るよ?」
「いいの。ちょっとぐらい太った方が可愛いでしょ?」
「まぁ……。そっか」
急に前より多くのおかずを摂取したせいか、吐きそうだ。だけど、中沢くんのため。そう思うと、何もかもぶっ飛んでしまう。ふと、窓際を見ると、中沢くんがこちらを振り向いて、微笑んだ。私は微笑み交わす。
中沢くんの為に頑張ろう!
その日の夕食は、いつもなら、全然食べないのにいっぱい食べた。自分の部屋に戻ってからも、普段は目の敵にしているお菓子をただ、ひたすら食べた。もちろん、目標は太ること。
お風呂から出た後、体重計に乗ってみると、今までと一緒のままだ。……もっと太らなきゃ。
「ちょっと、理恵。太った?」
「え?」
確かに最近、スカートがきつくなったかな、と思っていたところだ。人にも分かるぐらい太ったんだ。私は嬉しく思った。これで、少しは中沢くん、私を恋愛対象として見てくれるかな?
「大丈夫?ダイエットした方がいいんじゃない?」
「ううん、いいの!」
私はそう言うと、中沢くんのところへ行こうと走り出した。
「ちょっと、理恵!?」
後ろで友達の奈菜が呼んでいるが、私は気にせず、中沢くんのところへ向かう。
「中沢くん!」
「ん?」
廊下にいた中沢くんを呼び止めると、すぐにこちらを振り向いてくれた。
「ど、どうかな?少し太ったんだけど……」
「本当だね。だけど、俺もうちょっとだけふっくらした子が好き」
これでも、太ったつもりなのに……。少しの変化じゃダメってこと?私は決心した。太ることに命を捧げよう……。
段々と、そして確実に理恵は太っていった。
「おはよう、奈菜」
私はその日も、奈菜に普通に話しかけた……が、無視をされた。
「……?」
不思議に思って首を傾げると、クラスメイト全員の顔が歪んで見える。何か、私を笑ってるみたいな……。
「アンタさぁ、まだ気付かない?」
先程無視された奈菜が言う。
「何のこと?」
「その容姿!太ってさぁ、いい加減一緒にいたくないんだよね。それに、ここ最近付き合い悪くなかった?」
「それは……」
確かに奈菜の言う通りだ。最近は学校が終わったらすぐに、帰宅して家でずっと食べていたから。私は反撃できなくなってしまった。
「言いたいこと、そんだけ。じゃっ」
奈菜は勝手にそう言うと、私から離れてしまった。何よ!言いたいことだけ言って……。私は教室から出て行った。
空き教室に着くと、私は学校に持っていたお菓子を食べ始めた。もっと、太ったら……中沢くんは喜んでくれるはず。
「島本さん?」
ドアがガラッと開き、中沢くんが入ってくる。
「中沢くん……、私太ったよ。どう?」
「ハ、ハハハハッ!!」
中沢くんが突然笑い出した。まるで狂ったように。
「ど、どうしたの?」
「いや……君の姿があまりにも醜くて」
「えっ!?」
そんなことを言われるのは予想外だった。自分でも分かっていた。ブクブクした体。だけど、ショックだった。太れって言ったのは、中沢くんじゃないの?
「中沢くんが言ったんでしょ!?」
私は噛みつくような勢いで言った。
「ああ、俺が言ったよ。君に復讐をしたくてね」
「復讐……?私、中沢くんに何かした!?」
私は今まで中沢くんに出会ったことは無い。では、なぜ、ここまで恨まれる必要があるのだろう?中沢くんの表情を伺うと、冷たい表情をしていた。
「本当に君は忘れたんだね?じゃあ、最後のチャンスをあげるよ……。中沢千恵って子、憶えてるかい?」
「中沢千恵……。ああ、確かそんな奴、いたかも。でも何で中沢くんが知ってるの?」
その瞬間、中沢くんの目つきが鋭くなった。
「そんな奴って言うな!…………全く、君は最後のチャンスを逃してしまったようだね。それ相応の罰を受けるといいよ」
中沢くんはそう言うと、空き教室から出て行こうとした。私は中沢くんが怖くなった。
「ちょっと!中沢くん!」
「……Remeber Me」
そう言いながら、行ってしまった。
「どういうこと?」
もう追いかける気力も無かった。追いかけてもこの体型では追いつけない。
でも、何で中沢のことを?そこまで酷くしてないし。ただ、少し馬鹿にしただけだし。罪悪感なんて一つも無い。私が気に掛ける必要は無い。
私は納得すると、お菓子を食べ始めた。もう止められない。食べてやる。そう思い、口に含んだ瞬間、
私がドンドン膨らんでいく。
「いやっ……!」
パーン!!
大きい破裂音がして、理恵は、爆発した。教室中には血や、髪の毛がベットリと付いていた。もう理恵がいた痕跡は無い。
「Remeber Me……」
圭太は、笑いながら、ずっと呟いていた。
「一人目完了」
そう言い、次の目的の元へと向かった。