第20話~告白~
駅に着いた僕はすぐにホームへと入り、公衆電話を探した。
一人、公衆電話の前で受話器を持っている人影が見えるが、そこだけ電球が切れているのか薄暗く、その人がスージーかどうかはここからでは判断するのが難しかった。
だが、恐らくあれはスージーだろう。
早足でその人影に近づいていくと反対側のプラットホームに列車が入り、点している明かりがその人影を照らす。
「……! スージー!」
彼女の顔を確認すると、走りながら名前を叫んだ。直前まで強張った表情で受話器に向かって何やらぶつくさと言っていたスージーは、僕の声に気付くと満面の笑みを見せた。
慌てて元に戻した受話器が上手く引っかからず、ゆらゆらとぶら下がっている。
「先生!」
僕の胸に飛び込んできた彼女を、僕はしっかりと受け止める。
この時僕は、彼女が望むのであれば誰が何と言おうと、もう二度とスージーを離してなるものかと覚悟を決めた。
◇◆◇
車の中でスージーから事の成り行きを聞いた。
大学を卒業と同時に、母親が選んだ人と見合いをさせられる事になったらしい。それを断る事は、彼女にはとても難しい事だった。
何よりスージーは母親の事を愛している。断る事で母親の悲しむ顔は見たくなかった。
それに、今回は断れたとしても又別の人を連れてくるだろう。例え世間慣れしていないスージーであっても、その度に母親への不信感も募っていくのが目に見えていた。
そして彼女は置手紙を残し、あの家を飛び出してきたのだと少し興奮気味に僕に言った。
僕は耳を疑った。
あの小さかったスージーが?
僕の後ろにいつも隠れていた女の子が自分一人で決断し、身の危険を犯してまで僕の元へと来た事が信じられなかった。
「それにね、私は先生と約束してたから。先生との約束を守る事が、私の心の支えになったの」
はにかみながら笑うその表情に、どこか幼い頃の面影が見え隠れしていた。
そして、彼女はもう家には帰らないと言い切った。
僕なんかが何を言っても、それは無駄な事だとわかるほど固い意思が伺える。
始まりはどうであれ、“彼女を守りたい”と思う気持ちは確実なものへと変化を遂げた。
◇◆◇
そのままウィルの家へと戻り、目をくるくるさせている二人に事の成り行きを伝えた。前回突然やって来たときの様に、スージーを一晩だけここに居させてもらう事の了承を得た。
「それは別に構わないけど。これからどうするの? すぐにここに居るのがバレて連れ戻しに来るんじゃ? そうなった時にミック、君はどうするつもりなんだい?」
ウィルが僕にそう問いかけた。スージーではなく、僕に。
「僕は……僕も身を隠すよ。来週引っ越すつもりだったけど、明日の朝一番に車を取りに行って、荷物を積み込むつもりだ」
「身を隠すって?」
「君の知っているミックはもう居ない。僕はこれから別の人物として生きていこうと思う。何処まで通用するかわからないけど……」
「ミック……どうしてそこまでする必要があるんだ?」
ウィルが全く同意できないと言った顔で両手を広げた。直海はと言うとどうやら僕の気持ちがわかるのか、ウィルの横でじっと黙ったままで耳を傾けていた。
僕は冷静に自分の気持ちを伝えようと、大きく深呼吸して心を落ち着かせた。ウィルを真っ直ぐに見据えると、
「僕はスージーを愛している。もう誰にも遠慮する気は無い」
そうはっきりと告げると、僕以外の全員が口をポカンと開けて目を大きく見開いていた。
突然、僕の口から思いもよらない答えが返って来て驚いたのだろう。何を隠そう、自分でも一体僕は何を言っているのかと混乱していた位だったのだし。
でも、一番驚いているのは勿論スージーだった。
ウィルと直海が交互にスージーのその驚いた表情を見て、スージーすら初耳だったのかと、先ほどよりも更に輪を掛けて目をパチパチとさせていた。
「と、言うわけで今から急いで荷造りして来るよ」
言いたい事は全て伝えたとスッキリした僕はそれだけ言い残すと、部屋を片付ける為にリビングを後にした。
部屋に戻った僕は次々とダンボールに荷物を詰め込んで行く。手は動かしていても心はさっきの事で頭が一杯になっていた。
僕の突然の告白にスージーはどう思ったのだろう?
彼女からしてみれば僕は単なる家庭教師で、僕に父親の面影を探しているだけかもしれないのに、あんな事を言われて迷惑していないだろうか?
「はぁー……ちょっと早すぎたかなぁ」
作業する手を止め、胡坐をかいて頭を抱え込む。
あっけにとられたスージーの顔を見た途端、あの時は、ああ言うしか出来なかった自分を悔やんだ。
「――?」
扉をノックする音が聞こえ振り向くと、開けっ放しの扉の横でスージーが立っていた。
「先生? 入っていい?」
「え? あ、うん。ど、どうぞ」
弱ったな、彼女の顔がまともに見れない。
あんな事を言った後だからか、無性に恥ずかしくなった僕は彼女の顔を見る事が出来ず、背中を向けたまま作業を続けた。
「――」
沈黙が重苦しい。何か話をしなきゃ息が詰まりそうだ。
何て声を掛けようかと考えていると、急に背中に温もりを感じ、作業する手も止まった。
「先生、ありがとう」
「――」
彼女の言葉に自然と笑みが零れ、肩にかかった彼女の手をそっと握り締めた。
こんにちは、まる。と申します。
拙いお話に目を向けて下さり、有難う御座いました。
さて、『運命の人』も一区切りついたので、やっとこさこちらの更新をぱぱっとやっつけちゃおうと思っております。
後、10話前後の予定ですので、少しばかりお付き合い頂ければと思います。
どうぞ、宜しくお願いします^^