第12話~理性-欲望=罪~
スージーが少しづつ接近する。
吐息が感じられるほどの距離まで近づくと同時に、彼女の目も伏せられていった。
情けないかな僕は突然の出来事に、まるで蛇に睨まれた蛙の如く、瞬きもせずピクリとも動くことが出来なかった。
トンと唇が触れただけのキス。
それはまるで幼い子供同士が、わけもわからずするようなものだった。
スージーにキスの経験が無いのが明らかにわかる。
例え、そんなたどたどしいキスであったとしても、僕のスイッチを入れるのには十分過ぎるものであった。
彼女と添い寝するようになってからと言うもの、欲望と理性が紙一重な状態が続いている。彼女からのキスによって欲望が理性を突き破り、僕に行動を起こさせた。
僕に唇を触れさせた後、少し距離を取ると恥ずかしそうに俯いては、僕の様子をチラチラと伺っている。
理性を失った僕は、体勢が入れ替わるように彼女に覆いかぶさり、彼女の両肩に手を置いた。
僕はただ目の前にいる彼女を自分の物にしたくて、欲望の赴くままに徐々に顔を寄せて行った。
僕の両腕をそっと掴んで、目を丸くしているスージーは、僕の唇の先が触れたか触れないか位まで近づくと硬く目を閉じ、同時に僕の腕をぎゅっと掴んだ。
それを感じると、わずかに残っていた理性が僕を思いとどまらせる。
僕は目を閉じたまま、ソコから進むのを止めた。
首を少し傾けるだけで触れられる距離で、理性と欲望が戦っている。そして、最後は彼女が僕にかけた一言で、あっけなく幕を閉じる事となった。
「先生?」
「――っ」
頭をハンマーで打ちのめされた感覚に襲われ、目を見開いた。
そうだ僕は先生なんだ、スージーの恋人でもなんでもないんだ。一体僕は彼女に何をするつもりだったんだ? 僕に父親の姿を重ねている彼女がした、単なるおやすみのキスじゃないか。一体何を勘違いしてしまってるんだ。
頭の中を色んな想いが駆け巡り、僕はたまらなくなってベッドから飛び出した。
ソファーに座り頭を抱え込んだ僕に、スージーは上体を起こして心配そうに見つめている。
「先生? 大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。僕に構わず君は先に寝てて」
「……はい」
彼女は何も尋ねる事も無く、聞き分けのいい子供の様にシーツの中にもぐりこんだ。
僕は自分が犯してしまった過ちを、――自分自身を許す事が出来なかった。