第11話~安息の地~
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つい、昔を懐かしむように我を忘れて話していたが、よくよく考えればおませな子とは言え、まだ十歳のリオには少し早すぎる内容だと気付き、慌てて口をつぐんだ。
「あー……、今日はここまでにしようか」
急にやめるだなんて不自然過ぎるだろうか。隣に座っているリオに視線を移すと、彼女は円らな丸い目を硬く閉じ、ずり落ちてくる頭を何度も持ち上げるという動作を繰り返していた。
どうやら先程の話は聞かれていないようだ。僕はほっとして胸を撫で下ろした。
リオの頭をそっと支え自分の膝にもたれさせる。リオは自然と眠りやすい体勢を自分で探し、そのまますやすやと更に深い眠りに落ちていった。
僕は自分が着ていた白いシャツを脱ぎ、起こしてしまわない様そっとそのシャツを掛ける。すると、僕のシャツはまだ小さなリオの体をすっぽりと包み込んでしまった。
リオを見ていると、スージーを思い起こさずにはいられなかった。
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結局、スージーは一日だけという約束を守る事が出来ず、一週間後、その次は五日後、そしてその次は三日後と、僕と一緒に眠るのを求める間隔が次第に狭くなっていった。
いけない事だとわかっていながら、はっきりと拒否出来ない自分がもどかしい。
もう周りに何を言われてもいい。
いつしかそんな気持ちが自分に芽生えている事に、正直驚いた。
彼女に対する気持ちは単に妹の様なものとしてではなく、明らかに愛情と呼べるものへと変化していた。
夜な夜な部屋へやって来る度に、今日も僕に安息の地はないのだと知らされる。一晩中理性を保つのがどれ程辛いか、彼女は全く気付いていなかった。
いつもの様にベッドに入り、本を読みふけっていた。
ベッドサイドに置かれた時計を見ると、夜中の一時を過ぎている。スージーが来るとしたらいつもこの時間に来る。
どんなに眠い時でも何度も目をこすりながら、いつの間にか彼女を待ちわびている自分がいた。
ノックの音が彼女が訪れたことを告げている。
スージーが部屋に入ってくると、僕はいつも少し大人びた口調をして、彼女に諭す様に話した。
「スージー、又かい? ちゃんと自分の部屋で寝ないとダメだよ」
僕は口元を緩めながら、思っても無い事を口にする。それはスージーにもお見通しだった。
僕の話に耳を傾ける事無く、さも、当たり前かのように僕のベッドにもぐりこむと僕の肩に頭をもたげる。
それがいつものスージーの行動の様に思えたが、その日はいつもと何かが違っていて、彼女は何処か思いつめた様な表情をしていた。
「どうしたの? スージー」
「……」
手にした本をサイドボードに置き、彼女の肩に手を回すと小刻みに震えているのを感じる。
「心配事?」
「うん。先生とこうしていると安心するんだけど、一人になった途端、凄く不安になるの。明日になったら、もう私はこの世にいないんじゃないかって」
「スージー……」
僕はかける言葉が見つからなかった。
彼女の不安な気持ちは、僕がどんな慰みごとを言おうとも結局、彼女にしか理解出来ないのだから。
無言の時が流れ、彼女の震えも無くなったのを見計らうと、僕はルームライトのスイッチに手を伸ばして明かりを消した。
そのままベッドに横になろうと姿勢を崩そうとした時、暗闇の中でスージーの視線を感じた。
「スージー? そろそろ寝るよ」
少し開いたカーテンの隙間から、月の明かりが零れている。
ほんのわずかな明かりによって、スージーの表情がうっすらと見えた。
僕の目をじっと捉えていた彼女の瞳が少しづつ下がり、それは僕の口元で止まった。そして、スージーが少しづつ僕との距離を狭めて、いつもの頬へのおやすみのキスとは少し様子が違うと感じたとき、その予感は的中した。