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赫映物語  作者: 黒河竜也
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プロローグ 始まりの朝

「兄様――」


まどろみの中、透き通るような声が聞こえた。

だが俺はまだ惰眠を貪るつもりなので、その声を無視する。


「兄様~?」


声の主は俺の部屋に近づいているようで、先ほどよりも大きく聞こえた。

このまま睡眠を邪魔されるわけにもいかないので、自分の意思を伝えることにする。


「あと10分~」


どっかのギャルゲかと言ってから思った。


「に・い・さ・ま」


部屋の扉が開き、凄みのある声が聞こえた。

だがこのまま起こされるのも癪なので、布団を頭から被った。

そんな俺の行動に呆れたのかため息が聞こえる。

だがそんなことは関係ない。

俺は1秒でも長い睡眠を……


「寝るのは結構ですが今日は入学式ですよ。兄様」


睡眠を……


「何!?」


俺は跳ね起き、即座に時計を見る。

……7時前。

まだまだ時間はある。

謀りやがったな愚妹め……。

俺はグギギと音がしそうな雰囲気で、件の人物のほうに振り向いた。




長い黒髪。

微笑んだ顔。

そして真新しい制服。


「入学式の朝は早いほうがいいでしょう? 兄様」


俺の妹、宮野かぐやが笑顔でそこに立っていた。



















俺の名前は宮野大地。

剣道が得意なことを除けばごく平凡な高校一年……だと思う。

周りからどう見られているかなんてわからないしな。

家は俺と妹のかぐやの二人暮らし。

両親はどこか海外で事業を成功させているらしい。

たまに手紙がくるくらいで電話などまったくこないし、こっちから連絡しようも連絡先なんて知らないので、今どうしているのかわからない。

まぁ毎月二人暮らしには多すぎるくらいの仕送りが来ているので元気なんだろう。









「ったく。先に起きてるんだから作ってくれてもいいだろうに……」

「だめですよ。今日は兄様が当番なんですから」


そんな環境で育ったわけだから必然的に家事は持ち回りになるわけで。

飯に関しては俺が洋食、かぐやが和食といった感じだ。

ちなみに今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、あとは俺がコーヒーでかぐやがホットミルク。

まぁそんな朝食なわけだから食べ終わるのも早いわけで。


「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


結構時間に余裕が出来た。


「ちょっと早いですけどいきましょうか」


ま、やることもないし。


「そうだな」













「いってきま~す」


ちょうど俺たちが玄関を出たとき、向かいの家から一人飛び出してきた。


「あ、おはよ~。大地、かぐや」


あっちも俺たちに気付いたらしい。


「おっす。葵」

「おはようございます。葵様」


神尾葵。

俺たちの幼馴染。

青い髪をポニーテールにして、白いリボンで結っている。

弓の扱いに長けていて、中学のときは県三位。

俺たちと同じ新入生である。


「それにしても相変わらず丁寧というかなんと言うか……」

「ま、性分みたいなものだしな」


かぐやは誰にでも様付けをする。

ほとんどが苗字に様付けなんだが俺と葵、あともう一人だけは違う。

葵にとってみれば様抜きで呼んで欲しいのだろう。

俺はもう定着してしまったが。


「い、いいじゃないですか」


顔を赤く染めながらそっぽを向くかぐや。

何が恥ずかしいんだか。


「まぁそれでもかぐやは私の親友だけどね!」

「きゃあ!? 葵様!」


かぐやに抱きつく葵。

まぁこれも定番だ。

……うらやましいなんて思ってないぞ。


「先いくぞ~」

「兄様! 助けてください!」

「え~っ」

「葵様もえ~っじゃありません!」


ま、葵も満足したらやめるだろ。

それまで我慢しとけ。












「ん?」


しばらく歩いた先の十字路。

そこで特徴的な姿を見つけた。

つか相変わらずわかりやすいな、あの黒バンダナ。


「よっ竜牙」

「ん。大地か」


狩野竜牙。

俺の中学からの親友で同じ新入生。

かぐやが苗字以外で呼ぶもう一人でもある。

スポーツ万能で特にやっているのは野球と剣道。

なんか棒(バットと竹刀)で打つのが好きらしい。

その分勉強のほうは下から数えたほうが早いのだが、赤点だけは一つも取ったことのない抜け目のない奴。


「おっはよ~竜牙」

「おはようございます。竜牙様」


ようやく解放されたらしいかぐやと葵が追いついて挨拶するが。


「ん」


この一言。

基本的にあまり喋らないのである。

二人ともわかっているので問題はないんだけど。

こんな竜牙でも祭りごとになるとよく喋ったりする。

初めてみたときは別人かと思ってしまったのはいい思い出だ。


「そういえば春休みの間一度も見なかったがどこにいってたんだ?」

「九州」

「……は?」

「チャリで九州本場の豚骨ラーメン食ってきた」


ちなみにここは近畿地方。

ラーメン好きなのは知っているがそこまでやるか普通。

やるならせめて電車とかだろ。

そういえば夏にも北海道にいってきたとか言ってたな。

しかもチャリで。

相変わらず行動理論がわからん奴。

一人暮らしで無茶できるってのもあるかもしれんが。


「あっ見えてきたよ!」


葵の声に視線を上げると一つの校舎。

俺たちが今日から通うことになる学園。


「それにしても安直な名前だよな」

「いいじゃないですか。私は好きですよ」


俺のちょっとした愚痴にそう返すかぐや。

まぁ思っただけだから別にいいんだけどな。


「んじゃいきますか」


俺達は歩き出した。

かの竹取物語の舞台となったとされるこの町にある学園。

竹取学園へ――

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