肉じゃが
それが「朱里飯」、と名付けられSNSで人気を博すようになったのは、新婚間もない大地が自分の愛妻を自慢すべく投稿した一つのポストがきっかけであった。
ダイニングテーブルの上に置かれた、玉ねぎの浮かんだとろみのついたスープのような写真に加え、「めっちゃうまい! 朱里は料理も天才!」と付けたコメント。
新婚生活に浮かれている大地が投稿した微笑ましいポスト、で終わるはずだった。
翌日の投稿が行われるまでは。
「朱里悩んでる。ちょっと聞いてもらっていいか?」
ファンたちはバンドのコンポーザーたる朱里の悩みとあって、こぞって反応した。
「朱里どうしたんだ?」
「悩み? 深刻なやつか?」
「大地では解決できないのか?」
「とりあえず聞こうぜ」
コメントが流れたところで、大地が投稿する。
「朱里より→肉じゃが、煮るとじゃがいもなくなります。どうしたらいいですか?」
一瞬、タイムラインが静まり返った。
そして爆発した。
「は?」
「なくなる?」
「消失?」
「昨日のスープ肉じゃが説浮上」
「ポトフじゃなかったのか」
「待て、肉じゃがのじゃがいもはどこへ行った」
「メタル界の七不思議追加」
面白がるコメントの合間に、別の種類のアカウントが現れ始める。
花の写真。
犬の写真。
子どもの後ろ姿。
明らかに主婦層のそれであった。
「じゃがいもは男爵よりメークインが崩れにくいですよ」
「混ぜすぎない方がいいかも」
「煮えてからあまり触らないでね」
コメント欄は考察会場から料理教室へと姿を変えていった。
中にはこんな声もある。
「いや、どうせネタだろ」
「ここまで毎回失敗する?」
するとすぐに返信が飛ぶ。
「うちの娘、一人暮らし始めた頃もっとすごかった」
「リアルだと思う」
「初めてなら普通」
深夜近くになって大地が現れる。
「どうもありがとう。朱里、全部メモしてる。今度挽回するって。おやすみ」
その一文でコメント欄は拍手の絵文字で埋まった。




