表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【最終章開始!】婚約破棄された私、魔獣と話せるスキルで暴れる竜を通訳したら、冷徹騎士団長様に「俺の恋心も通訳してくれ」と溺愛されています  作者: 月雅
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/44

第10話 雨降って地固まり、愛は通訳不要



「……まったく。とんだお転婆を嫁にもらったものですわね」


 瓦礫の山と化した庭園で、ベアトリス夫人は扇子を閉じてため息をついた。

 その視線は、泥だらけのドレスを着た私と、同じく薄汚れた姿のグレイド様に注がれている。


 嵐のような騒動の直後だ。

 私は気まずさに身を縮こまらせた。

 マナーもへったくれもない姿を見られてしまった。

 これでは、「公爵夫人失格」の烙印を押されても文句は言えない。


「申し訳ありません、ベアトリス様。このような……」

「謝る必要はありません」


 夫人がピシャリと言った。

 彼女は瓦礫を避けて私の前まで歩み寄ると、汚れるのも構わずに私の手を取った。


「公爵夫人の第一の務めは、家を守ること。あなたは身を挺して、この家の守り神である竜と、当主である夫を救いました」


 厳格な瞳が、わずかに和らぐ。


「その覚悟と行動力。……合格ですわ」

「えっ?」

「あなたは立派な公爵夫人です。認めましょう」


 予想外の言葉に、私は目を丸くした。

 あの厳しかった夫人が、私を認めてくれた?


「ただし!」


 夫人は扇子で私の鼻先を軽く叩いた。


「その泥だらけの格好と、竜の背中に飛び乗るような無茶な振る舞いは、もう少しお淑やかにしていただきませんとね。これからの教育は、さらに厳しくしますわよ?」

「は、はい! 頑張ります!」


 私は背筋を伸ばして返事をした。

 その厳しさが、今は心地よく感じられた。

 期待されているからこその叱咤だとわかったから。


 ***


 レオン皇子の帰国準備は、慌ただしく進められた。

 彼はアカの背中に跨り、部下たちを従えて飛び立つ直前、私にだけ聞こえる声で囁いた。


「……最後に一つだけ、忠告しておいてやる」


 レオンの表情は真剣だった。


「あんたのその『魔獣通訳』とかいう力。ただのスキルじゃないかもしれん」

「どういうことですか?」

「帝国の古い文献に記述があるんだ。『竜巫女』……かつて竜と心を通わせ、世界を導いたという伝説の存在だ」


 竜巫女。

 初めて聞く言葉だった。


「もしあんたがその再来だとしたら、俺だけじゃ済まないぞ。大陸中の国が、王族が、あんたの力を欲しがるだろう」


 レオンは空を仰ぎ、苦笑した。


「俺は諦めたが、他の連中はもっと強欲だ。……気をつけるんだな」

「ご忠告、感謝します」

「フン。まあ、あの過保護な旦那がいれば大丈夫だろうがな」


 彼はグレイド様の方を見てニヤリと笑い、アカの首を軽く叩いた。

 アカが力強く羽ばたく。

 風を巻き起こし、帝国の一団は夕焼けの空へと消えていった。


 竜巫女、か。

 不穏な響きだ。

 けれど、今の私には不安よりも確かな温もりが隣にあった。


 ***


 その夜。

 ようやく静けさを取り戻した公爵邸の寝室で、私とグレイド様は二人きりになった。


 窓からは、修復中の庭園と、満月が見える。

 グレイド様は私の髪を梳きながら、ぽつりと溢した。


「……怖かった」

「グレイド様?」

「君を部屋に閉じ込めた時、君に嫌われたんじゃないかと思った。でも、そうしてでも君を失うよりはマシだと、自分に言い聞かせていたんだ」


 彼の手が微かに震えている。

 最強の騎士団長である彼が、私一人のことでこんなにも怯えていたなんて。

 それは深い愛ゆえの行動だったけれど、同時に私を信じきれていなかった証拠でもあった。


 私は彼の手を両手で包み込み、正面から見つめた。


「グレイド様。私、約束しましたよね? あなたの背中を守るパートナーになるって」

「ああ」

「私は、ただ守られるだけのお人形じゃありません。あなたが苦しい時は助けたいし、戦う時は一緒に戦いたいんです」


 今回の騒動で、はっきりとわかった。

 安全な場所に隠れているだけでは、大切なものは守れない。

 私は「ミスリル製の孫の手」一本で竜と渡り合える女なのだ。

 か弱くなんてない。


「だから、もう閉じ込めないでください。私を信じて、隣に立たせてください」


 私の宣言に、グレイド様は目を見開いた。

 しばらく呆然としていたが、やがてふっと力が抜けたように笑った。

 それは、憑き物が落ちたような、清々しい笑顔だった。


「……完敗だ。レオンだけでなく、私まで君に負かされるとはな」


 彼は私を抱き寄せ、額を合わせた。


「わかった。もう二度と、君の意志を無視して守ろうとはしない。君は私の誇り高い妻であり、最強の戦友だ」

「はい!」

「その代わり……今夜だけは、私の独占欲に付き合ってもらう」


 彼の瞳の色が、甘く熱いものに変わる。

 有無を言わせぬ口づけが落ちてきた。

 言葉はもういらなかった。

 肌と肌が触れ合い、体温を伝え合うだけで、互いの愛が痛いほど伝わってくる。


 通訳スキルなんて必要ない。

 この鼓動のリズムだけが、私たちだけの共通言語だった。


 ***


 翌朝。

 私は全身の気だるさと共に目覚めた。

 隣には、満足げに眠るグレイド様の寝顔がある。

 窓の外からは、ヴェルドアの元気な咆哮が聞こえてきた。


『腹減ったー! エルマ、飯まだかー!』


 いつもの日常が戻ってきた。

 でも、少しだけ違う。

 私はもう、ただの「通訳係」でも、自信のない「元男爵令嬢」でもない。

 公爵夫人として、竜騎士団の顧問として、そしてグレイド様のパートナーとして、胸を張ってここにいる。


 レオンが残した「竜巫女」という言葉は気になるけれど。

 きっと大丈夫。

 私には最強の夫と、最強の相棒ヴェルドアがいるのだから。


 どんな敵が来ようとも、私の「孫の手」と「通訳」で、かゆい所に手が届く解決をして見せる。


 私はグレイド様の頬にキスをして、新しい一日を迎えるためにベッドを降りた。

 

 私たちの愛と冒険の日々は、まだ始まったばかりだ。


(完)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


もし楽しんでもらえたなら★★★★★ボタンをぜひ押していただけると嬉しいです!

ブックマークやリアクションなどもとても励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ