87.分業
「封印されたガイストは10体。最も強力なのがグリム・アスシュナーベルです。実はその他に、もう一体……強力なガイストがいます」
ヨハンの説明にじいじは静かに耳を傾けている。
「そいつの名はドッペルゲンガー……」
「奴か……」
「はい……、奴はうちの爺さんが封印したので……」
「わかった。説明は不要だ。なるほど……。では、どうするか」
「繰り返しになりますが、今、自分達がやるべきことは、封印が同時に解かれることを避けるべく、我々だけで対処できる最小限のガイストの封印を解きながら、処置していくこと。なので、一体ずつ封印を解きながら……」
「であれば、ヨハンくん、俺がドッペルゲンガーとやる」
「え……!? いや、ドッペルゲンガーは自分が……」
「恐らく、今ここにいる誰であってもそう簡単に倒せる相手ではないだろう?」
「…………はい」
「少しでも並列で処置した方がいいだろう。残念なことに俺はドイツ式の封魔術を解くことができない。であれば、俺が可能な限り厄介な相手と対峙し、その間に、君達が比較的くみしやすい相手を処置していく方が効率がいいのではないか?」
「……ですが……いいのでしょうか? ドッペルゲンガーは……」
「ヨハンくん、君……自分が戦おうと思っていた相手に、俺が負けるとでも?」
じいじは少々、すごむように尋ねる。
「っ……! わ、わかりました……」
ヨハンはたじたじとした様子で頷く。
と、
「グリム・アスシュナーベルは……?」
「「!?」」
黙っていたリーゼが二人に尋ねる。
「「…………」」
二人は一瞬、沈黙してしまう。
先に口を開いたのはじいじであった。
「奴は…………後回しにせざるを得ない。現状では、あいつに粘ってもらい、その間に応援が来るのを待つ他ない……」
「リーゼ、グリム・アスシュナーベルは爺さんを含む多くの優秀な霊の審判者が結束し、いくつかの犠牲を払いながら、ようやく封印することができたと聞く。悔しいが僕達だけでは……」
「っ……」
その言葉にリーゼの表情も強張る。
「まずは自分達にできることをしよう」
「……わかった」
「それじゃあ、ヨハンくん、早速だが、頼む……」
「はい」
ヨハンは革のアタッシュケースから瓶を取り出す。
中にはパープルのオーラが揺らめいていた。
「それじゃあ、いきますよ……」
ヨハンは一呼吸し、そして、右手で空に文字を描く。
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)
Zerschlage das Urteil – zerbrich das Band der Gerechtigkeit.(裁きを打ち砕き、正義の鎖を断て)
Öffne das Band des Leids – gib dem Schweigen nach.(苦しみの縛りを解き、静寂に委ねよ)」
空中に〝ᛗ〟〝ᛏ〟〝ᚾ〟の文字が描かれ、そして、瓶が割れる。
「ヨハンくん、ありがとう。そして、すぐに離れるのじゃ!」
「はい……、白神のじいじさん、すみませんがよろしくお願いします!」
そう言って、ヨハンはアタッシュケースを持ち、急いで距離を取る。
その間に、割れた瓶は強い光を放つ。
やがて光は収まり、そこには人影だけが残る。
そして、
「よぉ……、久しいな……元……。随分とじじいになったな……」
人影がじいじに語り掛ける。
「…………なんだ、元気そうじゃねえか……。ヴィリー……」
じいじは眉間にしわを寄せ、応える。
瓶から現れたのは50代くらいの男。
白神元の友にして、ヨハン、リーゼの祖父。
ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの20年ほど前の姿であった。




