82.ひょっとして
(それはそれとして、ドイツ式にそんなデメリットがあるなんて、確かに知らなかった。じいじは知ってたのかな? …………っ! って、ちょっと待てよ……。……ドイツ式は魔力量以外にリスクを分散できる……。それって……)
界はふと気が付く。
(それって要するに……何かを〝犠牲〟にしている。つまり〝犠牲の封魔術〟に……)
犠牲の封魔術。
それはドウマが発明したという依代の子に慰霊を卸す鎮魂の儀に使用されているという失われた封魔術である。
(じいじ……もしかして……俺のやりたいことに気付いて……)
「ありがとうございます、ヨハンさん。僕、もう少しドイツ式封魔術を頑張ってみようと思います」
「え……? あ、うん……。わかったよ。界くんには必要ないような気もするけど……」
ヨハンはそんなことを言いつつ、一度、界から離れた。
(せっかくじいじが用意してくれた機会だ。なにかものにしないと……)
界はそう意気込み、訓練を再開するのであった。
◇
夜――。
界は常夜灯だけの居間で一人、ドイツ式封魔術の表を眺めていた。
が、
(「だめだ……。こんな表見ててもさっぱりわからん!」)
表からくみ取れるのは、どのルーンを使えば何ができるかだ。
なぜそのルーンを使うと、それができるのかはわからないのだ。
要するに、多くの人がスマホを巧みに操作することはできても、スマホを作れと言われてもそんなことは無理。それに似ている。
(「ねぇ、ドウマ」)
【ん? なんだ?】
ドウマは少し眠そうに返事をする。
(「ドウマはこのルーンの仕組み……わかるの?」)
【まぁ、なんとなくわな……】
(「えっ!? 本当に!?」)
【お、おう……。儂様は術の開発が盛んにおこなわれていた時代の者だからな……】
(「じゃ、じゃあ……その……ちょっと教えてくれないかな……」)
【うーん……】
ドウマはすぐには了承しない。
【田介……お前……ひょっとしてだが……】
界はぎくっとする。
【……母親殺しの呪いをどうにかしようとしているのか?】
(「えっ!? あ……えーと……、そ、そうだよ」)
【やはりか……】
ドウマはそう言うと、何かを考えるように少し黙ってしまう。
その時だった。
「ひゃっ!」
(……ん?)
突然、物音が聞こえる。
「…………リーゼさん?」
それはパジャマ姿のリーゼであった。デジャブ。
(ま、まさか……)
「……界さん……ひょっとして私がまた……発注することを狙って、ここで……」
「いや、それはないです」
「そ、そうよね……。ごめんなさい。私ったらなんて失礼なことを……」
そう言って、リーゼは10ユーロ札をすっと差し出す。
(ふぁ……?)
ジャー…………キー……パタン……。
「…………」
(…………)
トイレから出たリーゼは無言で俯きながら、小刻みにプルプルと震えていた。
「あの……リーゼさん、大丈夫?」
「へ? あ、えぇ……、また無理を言ってごめんなさい。それと、あの……これ……本当にいらないの?」
リーゼはふたたび10ユーロ札をすっと出す。
「いや、だからいらないって」
「そう……」
リーゼはおずおずと10ユーロ札を引っ込める。
「あの……それで、界さん……やっぱり誰かと話してたよね?」
「え……? ど、どうだったかな……」
界はとぼけるが、リーゼは界をじっと見つめる。
(……今日はバッチリ聞かれちゃってたのかな……)
「あの……ひょっとしてだけど……ど、ドウマ様と話していたの?」




