81.差異
銀山家での実戦訓練を終えてからもヨハン、リーゼとの訓練は続いていた。
ヨハンはすっかり日本式の封魔術が使えるようになっていた。
リーゼもドイツ式より、日本式の方が性に合っているようで、熱心に訓練に取り組んでいた。
そして、界はというと……、
「……」
なぜかじいじに放任されていた。
銀山家での実戦訓練を終えた後、「界、お前はもうよくわからんから、とりあえず一人で訓練してるんじゃ!」と言われ、本当にその後、ほぼ放置状態となってしまった。
(……一人で訓練と言われてもなぁ)
界は若干の居心地の悪さを感じながら、道場のすみっこで、結印の手さばき練習をしていた。
だが、ただいたずらに時間を無駄にしていたわけではない。
結印の手さばき練習は半分、手癖で行っていて、頭の中では考え事をしていた。
その主たる内容が、
(……じいじはなんでこの交流会を設定してくれたんだろう)
ということであった。
確かにたまたまヴィンターシュタイン家とそういう話になったと考えられなくもなかった。
(それにしても都合が良すぎるというか……。自分で言うのもあれではあるんだけど……)
界は、じいじが自分のためにこの交流会を設定してくれたのではないか? と思った。
(じいじが交流会の初日に言っていたこと……)
界は、じいじの言葉を思い起こす。
『あくまでも技術交流であって、必ずしも両方を覚える必要はないんだ。両者の差異などから、なにか気づきでもあれば、それが収穫だと思っている』
(技術交流であって、必ずしもドイツ式の封魔術を覚える必要はないとじいじは言っていた。人にはそれぞれキャパシティがあって、場合によってはたくさんのことを覚えることはかえって、時間の浪費やデメリットにも成りうるかもしれない。じいじがそのリスクをおかしてまで、俺にドイツ式の封魔術を学ばせた理由……)
「両者の差異から、なにか気づき……か……」
と、
【さっきから、なにをぶつぶつ言っているのだ?】
ふいにドウマが話しかけてくる。
(「あ、いや……、日本式とドイツ式の封魔術の違いについてちょっと考えててさ」)
【ほう……】
「日本式はお作法はあるものの、厳格な正確性は求められない。ある意味、センスに依存したやり方かなって……」
【ふむ……。まぁ、確かにそうかもな】
「一方のドイツ式はルーン文字により術の工程が厳格化・体系化されている」
「どうしたんだい? 界くん、ぶつぶつと……」
(あ……やべ、声に出してたか)
声を掛けてきたのはヨハンであった。
「あー、えーと、気にしないでください。ちょっと日本式とドイツ式の封魔術の差異について考えていただけで……」
「お、界くんは熱心だね。あんな規格外の封魔術をもっているというのに……。その向上心は見習わないとだな」
「そ、そんなんじゃありませんよ……」
界は日本人らしく謙遜する。
「……」
ヨハンは日本人の気質を理解しているようで、深くは突っ込まない。
「ところで日本式とドイツ式の封魔術の差異だっけ?」
「え……? あ、はい……」
「界くんはまだドイツ式の封魔術に一度も成功していないから……あ、えーと、悪意はないよ」
「大丈夫です」
「気を取り直して、一度も成功していないから、気づいていないかもしれないね」
「あ、はい。やっぱりドイツ式って日本式より優れているんですかね?」
「むしろその逆だよ」
「え……?」
「僕は日本式を一部、会得してみて、驚いた」
(……? どういうこと?)
「日本式は……デメリットが少ないんだ」
「……!」
「日本式もドイツ式も魔力量が減少することは同じだ。だけどね、ドイツ式はそれ以外にも、ルーンによってはリスクがある。例えば、筋力が少し減少する……とかね。まぁ、その分、魔力量の消費は抑えられるけど……」
「え、そうだったんですか!?」
「そうだよ。僕はドイツ式をある程度、マスターしているから、ここから日本式をそのレベルまで到達させるのは難しいかもしれないが、リーゼは、より難しいはずの日本式の方が性にあっているようだ……。リーゼはまだ若い。だから、今後、日本式を学ぶという道もあるだろう。魔力量が多い人にとっては日本式の方がよりメリットが大きいだろう。そう考えると、少し羨ましいよ」
(……ヨハンはヨハンでリーゼのことを羨んでたりするんだな)
界はそんなことを思う。
(それはそれとして、ドイツ式にそんなデメリットがあるなんて、確かに知らなかった。じいじは知ってたのかな? …………っ! って、ちょっと待てよ……)
界はふと気が付く。
(……ドイツ式は魔力量以外にリスクを分散できる……。それって……)




