80.交換
「じいじにも何もわからん」
「へ……?」
結局、界もじいじもドイツ式封魔術を日本式の解呪術で解けた理由はわからなかった。
「もにょー」
「あ……」
残ったのはもにょ状態のヴォルフィだけ。
「あー、えーと、よ、ヨハン……ヴォルフィをもらってもいいのかな?」
「お、おう……特に問題ないよ。そのままならただのガイストなわけだし……」
「……よかった……ありがとう」
界はほっとしつつ、今度は日本式の封魔術でヴォルフィを封印する。
ヴォルフィは抵抗することなく、お札へと収まってくれた。
界は一息つく。
(「ねぇ、ドウマ」)
【あん……?】
(「ひょっとして、ドウマならわかる? ドイツ式封魔術を日本式の解呪術で解けた理由」)
【……確かなことは儂様にもわからぬな】
(「そう……。ってことは予想はできるってこと?」)
【あくまでも仮説だ。仮説だが、田介の膨大な魔力が封魔術の理を歪ませたのかもしれぬな】
(「……そ、そうなんだね……。ちなみにドウマはやったことあるの?」)
【あのなぁ……田介の魔力量は、儂様のそれとは……ッ】
(「ん……?」)
【……そ、そんなアホな発想、考えたこともないから分からぬわ! 儂様はこう見えて、法則や理屈を重んじるタイプなんだよ!】
(「そっか……。そうだよね。ドウマは術に対して真摯に向き合ってるんだよね……」)
【っ……! し、知ったような口を……】
(「ごめん……」)
(……でも、以前、魔力を分けてもらった時に流れてきたドウマの思念からは、真摯さや、向上心、そして、たゆまざる努力を感じたんだ……)
と、界はドウマの方に意識を向けていると、
「銀山くん、難しいかもしれないが、このことはできれば内密に……」
じいじが銀山に、少々、申し訳ないといった様子で頼み事をしていた。
「しょ、承知しました。皆の者、このことは内密にするよう……」
「了解っす!」
「ぜ、絶対、誰にも……言わないっすよ」
「封魔術で、霊魔を従えるなんて、く、口が裂けても言わないっす!」
「お前……言うなよ……! 絶対、絶対だからな!」
(…………大丈夫かな……)
じいじも苦笑いしており、これは流石に無理かもなと思っていそうであった。
と、その時であった。
「あの……皆さん……、言ったら……」
黒髪の少女がぼそりと呟く。
雨の周囲の空気が凍てついていく。物理的に。
「「「「っ……!!」」」」
「あ、雨お嬢……」
「あ、あの……本当に言わないっすよ」
「まじっす」
「ですよね。ありがとうございます……」
(あ、雨さん……ちょっと怖いです……。でも……ありがとう)
と、界はふと思い立つ。
「あ、そうだ、雨さん!」
「へ……? な、なんでしょう……界くん」
「あの、雨さん……、その……もしよかったら、連絡先を教えてもらえませんか?」
「連絡先…………連絡先!?」
(いきなり頼んじゃったけど、断られないかな……)
界は大人の精神ゆえ、恥ずかしながらも、ちょっとドキドキしてしまう。
「も、もちろんです……ぜひ……ぜひ交換させてください!」
「あ、雨……お父さんの許可は……?」
後ろで聞いていた銀山がうろたえた様子でそんなことを言うと、雨が振り返る。
界からは雨の表情は見えなかったが、
「あ、いえ、なんでもないです。ど、どうぞ……」
銀山はあっさりと許可を出す。
再び前を向いた雨の口元は僅かに緩んでいるようにも見えた。
(よかった……)
「ありがとう」
界は微笑む。
「……~~」
雨はもじもじしてしまうのであった。
こうして、雨を含めた実戦訓練は終わった。




