79.ひとつだけ分かること
「封ぜし鎖、今解かれたり。
汝が意、汝が在り処へと」
界はヴォルフィが封ぜられた瑪瑙に対して、解印を続ける。
そして、
「望むなら共に歩まん、我が覇道へと!」
それは界独自の解呪詠唱であった。
「…………」
が……、瑪瑙に特に変化はなし。
(失敗か……、まぁ、そりゃそうだよな……)
界は当たり前のことが起き、当たり前に納得する。
と、思ったその時であった。
「界くん……! 瑪瑙が……!」
(ん……?)
ヨハンの声で気が付く。
持っていた瑪瑙が突然、激しく明滅し始める。
(へ……?)
「な、何が起きているんだ?」「界さん……!?」
皆がざわついている間にも、明滅する瑪瑙にひびが入り始め、更に強い光を放つ。
そして……、中から現れた。
「「「「…………」」」」
皆が絶句する中、現れたそいつは……首を傾げながら、ひと鳴きする。
「もにょ?」
「「「…………え?」」」
ヨハン、リーゼ、雨が三人そろって、同じ顔をしている。
豆鉄砲を食らったような顔だ。
「もにょにょにょ……」
中から現れたヴォルフィは、小型のオオカミのような霊魔であった。
ふわふわしており、青い瞳で尻尾が長い。
そんなヴォルフィが界に擦り寄っていく。
「もにょにょ……もにょ……」
「よしよし……よく応えてくれたね……」
界はそんなヴォルフィのおでこを優しく撫でる。
「もにょにょにょー」
ヴォルフィはとろけるような表情を見せる。
(うぉ、モフモフしてて触り心地抜群だな……。って、それどころじゃない! ……できた。できたぞ……! もう完全なるごり押しだったけど、ドイツ式の封魔術を日本式の封魔術で解くことができたんだ!)
「か、界くん……なにを……ヴぉ、ヴォルフィは危な……」
そう言って駆け寄ろうとしたヨハンをじいじが制止する。
「おじい……さま?」
「ヨハンくんもなんとなく感じているだろう?」
「え……?」
「ヨハンくん、確か交流会の初日に伝えたよな?」
「……!」
「うちの界は紛れもなく一族の歴史上で最大の才能じゃと……」
ヨハンは息を呑む。
「さて……」
界は目の前のムカデの霊魔を見据える。
「ギィイ……」
ムカデの霊魔は界のことを律儀に待っていたわけではない。
扱われていた魔力の量の多さを敏感に察知し、動くことができなくなっていたのだ。
「さて……ヴォルフィ……頼んでもいいのかな?」
「もにょ……!」
ヴォルフィは力強く鳴くと、ムカデを睨みつけ、そして……、
「もにょぉおおお!」
「ギィイ……ギィイ……」
あっという間にムカデの霊魔を嚙みちぎってしまった。
「し、信じられない……。霊魔が……人間の言うことを聞いている? あ、雨……お前はとんでもない子のことを……」
その光景に、七大名家の当主たる銀山でさえも口をあんぐりと開けていた。
「しまったなぁ……。まだ、公然にするつもりはなかったのじゃが……」
「あ、ごめんなさい……じいじ……」
界はじいじが自分を守るための配慮をしてくれていたのを無駄にしてしまったことを申し訳なく思う。
「まぁ、なっちまったもんは仕方がない。そもそも界をけしかけたのは、じいじだしな」
しかし、じいじは界を責めるようなことはしなかった。
「と、ところでじいじ、これって一体なにが起きたの?」
界は自分がドイツ式封魔術を日本式の解呪術で無理矢理、解けてしまった理由をじいじに求める。
「あのな、界…………ひとつだけ分かることがある」
「……うん」
「じいじにも何もわからん」
「へ……?」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
また、一点、お知らせがあります。
本作のコミカライズが1/14(水)から始まります!
しかも、媒体はマガポケです!
マガポケ。
正直、凄く憧れていたので、私自身、めちゃくちゃ嬉しいです。
そして、漫画を担当される田崎辰先生がほんっとうにすごいです。神と言って差支えないです。
漫画と小説の表現の差異で、一点、小説とは違うところがあるのですが、これはこれで良きなんです。
ぜひお楽しみに!




