78.難儀だなぁ
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)」
界は右手で空に、ルーン文字をなぞる。
空に描かれた〝ᛗ〟の文字と共に、石に刻まれたᛗの文字が砕けるように消滅する。
「ちょ、ちょっと待って、どういうこと?」
その様子を見ていたヨハンが慌てた様子でじいじに尋ねる。
「今、界くんがやろうとしてるのは、解呪ですよね? 確かに界くんは、一度もドイツ式の封魔術に成功はしていませんが、それはそれとして、今、解呪をする意味がわかりません!」
「ふむ……」
じいじは気難しそうな顔で頷く。
(じいじは俺の変な封魔術を信じて……)
界はそう思い、ドイツ式解呪術を続行する。
「Zerschneide die Kette der Gier – befreie es(欲の鎖を断ち、解き放て)」
石に刻まれた〝ᚠ〟の文字が砕けるように消滅する。
(よし、いつになくいい感じだ……)
「確かにそうじゃな! 界、なんで解呪術しようとしてるんじゃー?」
(お、おい……!)
「Löse den Kreis der Ernte – lasse die Zeit erneut フリーゲン!(報いの輪を解き、時を飛ばせ!)」
(あぁあああ! フリーゲンじゃなくて、フリーセン(巡らせよ)だったぁあああ!)
〝ᛃ〟の文字は砕けることなく、他の文字も元に戻っていく。
失敗である。
(くっ……、最後……心が乱れた……)
界はがっくしする。
(って、そんな場合じゃない……!)
ムカデのような霊魔は迫っていた。
(くっ……)
「風術〝風縛〟」
「ギィイイ」
界はとっさに風の壁でムカデを止める。
さらに、
「水術〝流水〟」
水術でムカデを後方へと追いやる。
「おぉー!」「……」
その様子にヨハンやリーゼは興味を示していた。
実際のところ、界は、このくらいの霊魔であれば一般的な妖術のみで葬ることができる。
だが、
(今の目的はそこじゃない……。俺は……封魔術を……なんとか次のステージに進めなくちゃいけないんだ……)
界は、もう一度、瑪瑙を握る。
(も、もう一度……)
「Ziehe den Keil des Willeンヌ……」
(あぁあああ! 初っ端で噛んだぁあ! さっきのが奇跡的だったんだよ……!)
【異国の言葉とは難儀だなぁ】
ドウマは謎の共感を示す。
(「あぁ、くそっ……!」)
【お……? 田介にしてはイラついているいるな】
(「…………ごめん、ちょっと焦ってて……」)
【そうなのか?】
ドウマは少し不思議そうにする。
【なぜ、そんなに焦っているのかは知らぬが、前にも言ったが、田介は日本式の封魔術ができるのだからそれでいいのではないか?】
(「それは……そうかもだけど……」)
(だけど……、時間が……時間がないんだ……。ちょっとした手掛かりでも、今は……。……っ! 日本式……か……)
(「ドウマ、ありがとう、ちょっと試してみる」)
【ん……?】
と、界は、再度、瑪瑙を強く握る。
そして、
「封ぜし鎖、今解かれたり……」
解印を開始する。
「か、界……!」「界くん……!?」
じいじとヨハンは即座に反応する。
「界くん……! それは……! っ……! おじいさま?」
ヨハンが何かを言おうとするが、じいじがそれを制止する。
だから、界は継続する。
だが……、瑪瑙に刻まれたルーン文字に変化はない。
(っ……! くっ……、ルーン文字による封印……これを無理矢理、解印で解くなんて……やっぱり無謀だったか……)
界は唇を噛みしめる。
(いや、諦めるのはまだ早い……!)
「なっ……! ど、どういうことだ……?」「す、すごい……」
ヨハンとリーゼはその気配に恐怖する覚えた。
界はありったけの魔力を瑪瑙に注ぎ込んだ。




