77.実戦の方が早く身につく
リーゼはトカゲの霊魔に対して結印を続ける。
「縛めの鎖、いま編まれたり。
汝が魂、此処に留まれ。
我が意、我が理、ただ封ずるにあり――封!」
すると、トカゲは光を放ち、木彫りの獣の依代に収まっていく。
「おぉー、よくやったぞ、リーゼちゃん、成功じゃな!」
「はい……!」
じいじに褒められて、リーゼはほんのりと口角を緩める。
「リーゼ、すごいじゃないか、実戦で封魔術を成功させるなんて……!」
「あ、ありがと……」
ヨハンの称賛には控えめの反応を見せる。
(うぅ……、先を越されてしまった……)
同じように訓練しているのに、ドイツ式封魔術を未だ扱えない界はちょっぴり悔しかった。
だけど、
「すごいですね……! リーゼさん!」
中身は大人なので、しっかりと称賛する。
「で…………でしょ!」
リーゼは一瞬、戸惑いつつも、胸を張る。
一方、
「お父さん……、あれって…………封印……術……?」
「あ、雨……そ、そうだな……」
雨は自分の父に、リーゼが今、披露した技の内容を確認する。
「……ふーん」
雨は少々、不満そうな顔を見せ、父である銀山は焦った表情を浮かべていた。
「次、最後。界の番じゃな」
じいじがそう言うので、
「あ、うん」
界は頷く。
「それじゃ、界、はい、これ!」
「え……?」
じいじは界に石を渡す。
縞模様が美しい半透明な石である。
(え……? これって……)
それは瑪瑙と呼ばれる石……。
普段、界が訓練で使用しているドイツ式の依代石。
つまり、小型のオオカミのような霊魔〝ヴォルフィ〟が封印されている石である。
「ど、どういうこと!?」
「界、お前、未だに、ちんたらやってるんじゃろ?」
「っ……!」
(失敬だぞ! じいじ……! これでも一生懸命やっているんだ!)
「界、お前は実戦の方が早く身につくタイプなんじゃないかと思ってな」
【それは言えてる。わかってるじゃないか、田介のじいさんは……】
(ちょ、ドウマまで……!)
「というわけで、がんばるのじゃぞー!」
そう言って、じいじは銀山家の破魔師の方たちに「いいよ」というように丸のジェスチャーを送る。
「お、許可が下りたようだ」
「最後は男児だな……」
「ってか、あの子……噂のドウマ様の……」
「ひっ、まじか……」
「ただ……、あのドウマ様を制御下に置いているとかなんとか……」
「やばすぎるキッズじゃないか……」
「それはそれとして……さっき、雨お嬢が、彼に対して、我々には見せない顔をしていなかったか?」
「おいやめろ……! 気づかないふりをしていたのに……!」
「………………ちょっと強めの奴でよさそうだな」
「……うん」
「……特に理由はないけど、そうしよう」
(……おい)
そうして、銀山家の破魔師たちが一体の霊魔に対する封絶術を解く。
選ばれたのはムカデのような姿をした霊魔であった。
(うおっ、来た……!)
「……界くん?」「界さん……」
雨は不思議そうに、リーゼは少し不安そうに界を見つめる。
そんな二人に、気づいていない界は
(……もう、やるしかないぞ!)
覚悟を決め、瑪瑙を握った手を左手に持つ。
そして……、
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)」
右手で空に、ルーン文字をなぞる。
空に描かれた〝ᛗ〟の文字と共に、石に刻まれたᛗの文字が砕けるように消滅する。




