76.女性陣
「それじゃあ、次は私が……」
今度は、雨が一歩前に出る。
「雨さん、がんばってね」
そう言いながら、ヨハンは入れ替わるように後方へ下がる。
「お、おい、雨お嬢の番のようだ」
「あぁ、一番、きもくない霊魔にしてさしあげろ」
「うむ、そうだな」
なにやら破魔師達の声が聞こえてくる。
「……別になんでもいいのに」
その様子を見て、雨は少し不服そうであったが、破魔師達は雨を甘やかしている感じに見えた。
(…………なんか、ひどい扱いを受けているわけではないんだな……)
界は少しほっとする。
元依代の子である雨は、悪抜けの子などと呼び、差別的な目を向けられることも多いと聞いていた。
しかし、少なくともここにいる破魔師達から、そういった雰囲気は感じられなかった。
そうこうしているうちに、銀山家の破魔師たちが一体の霊魔に対する封絶術を解く。
選ばれたのはカニのような姿をした霊魔であった。
霊魔は雨に襲い掛かってくる。
雨は静かに掌を前に出す。
「氷術:氷柱槍」
一瞬の静寂ののち、雨の近くに氷柱の槍が形成される。
その槍を雨が指先でちょんと弾く。
鋭槍がカニめがけて一直線に放たれる。
「キギャァアアア!」
カニの霊魔は奇妙な鳴き声をあげる。
鋭く尖った槍が霊魔の殻に突き刺さり、甲を砕く高音が響いた。
一瞬、霊魔がもがくが、冷気が傷口に入り込み、動きが鈍る。
そして、凍てついた脚が地を踏みしめられず、重々しく崩れ落ちた。
「わーお」
それを見ていたヨハンが小さく歓声をあげる。
「ふむ……」
じいじも感心するように頷いている。
(……すごい。雨さんの氷術、たった一年ですごく洗練されている……)
と、
「ど、どうでしたか? 界くん」
雨が緊張した様子で界に感想を求める。
「え? す、すごいよ! 雨さん! たった一年で! 栗田先生に見せたいね!」
「うん……!」
雨はとても嬉しそうに頷く。
「……ぐぎぎ」
(……ん?)
カニがまだ生きてたのかな? と思って見ると、それはリーゼであった。
リーゼはなにやら歯を食いしばっていた。
と、
「それじゃあ、次、リーゼちゃんね」
「へ……? あ、はい……」
じいじに指名され、リーゼは油断していたのか、少々、すっとんきょうな声を出す。
しかし、覚悟を決めたのか雨と入れ替わるように前に出る。
「お、おい、雨お嬢より小さい女の子が来たぞ」
「あぁ、しかも雨お嬢に匹敵する……」
「おい、不敬だぞ。彼女はヴィンターシュタイン家のご令嬢」
「ってか、お前、雨お嬢一筋じゃないのか!?」
「っ……! ち、違う! 私は雨お嬢一筋であって……お、お許しください、雨お嬢」
「…………」
当の雨は無言で、何やら恥ずかしそうに視線を逸らしている。
「でもまぁ、やっぱりあの子、可愛いから極力きもくない霊魔にして差し上げろ」ということで、選ばれたのは、トカゲのような姿をした霊魔であった。
リーゼは少々、緊張した様子ながら、怖がっているわけでもなく、堂々と霊魔の前に立つ。
と、
「リーゼちゃん、封魔術を使ってごらん」
それはじいじからのリクエストであった。
「っ……! わ、わかりました……!」
リーゼもそれを受け入れる。
その間にトカゲの霊魔がリーゼに向かい、直進を始める。
リーゼは懐から拳銃を取り出す。
(あれはヨハンも使っていた霊素結晶弾……!)
リーゼは更に魔力を帯びた弾丸を装填する。
そして、
「霊核弾!」
トカゲに向けて、弾丸を三発放つ。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ、ぐぎゃん!」
弾丸は見事にトカゲに命中する。
そして、リーゼは木彫りの獣の依代を手に持つ。
「え……? 日本式……?」
それを見た銀山家の者達がざわつく。
だが、リーゼは集中を切らさずに結印を続ける。
「縛めの鎖、いま編まれたり。
汝が魂、此処に留まれ。
我が意、我が理、ただ封ずるにあり――封!」




