75.エーテルクルクルクーヘン
「Was ist das?(それはなんですか?)」
なぜかリーゼがいつもより低い声でドイツ語で、問い合わせする。
「え……? なんて……?」
界はドイツ語わからず。
リーゼに聞き返す。
「あっ……、えーと、な、なんでもない!」
リーゼは少し慌てた様子で、そっぽを向いてしまう。
「……」
雨もドイツ語はわからなかった。
しかし、何か得体のしれないリスクのようなものを本能的に感じ取った。
「界くん、その人達は?」
雨はリーゼ、ヨハンの方向に視線を送る。
「あ、えーと、彼らはドイツから技術交流に来ている霊の審判者で、ヨハンさんとリーゼさん」
「……リーゼ」
雨はリーゼという自身にもひけを取らない容姿のドイツ少女の存在をしっかりと記憶する。
と、
「おー、ヒュプシェス・メートヒェン(可愛い女の子)」
ヨハンが雨を見て、そんなことを言う。
「「……?」」
界も雨もドイツ語はわからず、何言ってるのこの人? という顔をする。
「僕はヨハン。ヨハン・ヴィンターシュタイン。君は?」
「銀山雨と申します」
「あ、銀山家の…………雨ちゃんだね。よろしくね。雨ちゃん」
「あ、はい、よろしくです」
雨はわりと淡泊に答える。
ヨハンはあいさつすると、わりと瞳にハートマークな視線を向けられることが多かったので、内心、少し驚く。
「ほら、リーゼも挨拶しな」
「えっ……」
ヨハンに促され、リーゼは致し方なしという様子で、
「リーゼロッテ・ヴィンターシュタイン。よろしく」
と挨拶する。
と、
「挨拶は済んだか、若者ども」
生暖かい目で見守っていたじいじが若者たちを呼ぶ。
「「「「あ、はい」」」」
「うむ、今回は霊魔が弱っているから、悠長に挨拶などできたが、緊急時には控えるようにな」
しっかりと苦言も呈す。
「「「「はい」」」」
「よかろう。それじゃあ、銀山くん、誰からいこうかね」
「そうですね……」
(状況と話しぶりを見るに、一人ずつ、霊魔との実戦訓練をしていくということかな?)
「じゃあ、ここは僕から」
立候補したのはヨハンであった。
「おー、ヨハンくんか。まぁ、君はわざわざこんなお試しをする必要もないのじゃがな……」
「そうですね。ですが、ここは一つ、彼らのお手本ということで」
「うむ、それじゃあ、頼ませてもらおうかの……」
そうして、ヨハンが一歩前に出る。
銀山家の破魔師たちが一体の霊魔に対する封絶術を解く。
すると、カエルのような姿をした霊魔がヨハンに襲い掛かってくる。
と、
「うーん、怖いね……」
ヨハンはそんなことを呟きながら、懐から何かを取り出す。
(……銃?)
それは拳銃の形をしたものであった。
ヨハンは静かに拳銃の銃身を上げた。
それは古風なリボルバー式。
彼の指が、銀色に鈍く光る弾丸を装填する。
界は確かにその弾丸が魔力を帯びているのを感じ取った。
青白い光を宿した結晶弾が、薬室に収まる。
そして、
「霊晶砲」
ヨハンは呟くようにそう言う。
銃口から魔力がスパークするように発射される。
「ゲギャァアアアアア!!」
カエルのような姿の霊魔の身体を青白く煌めく弾丸が貫く。
そして、霊魔は霧散する。
「「「おぉおおおお!」」」
周囲からは歓声があがり、拍手する者もいた。
(……なにこれ……かっけぇ……!)
界もヨハンのクールな姿にワクワクする。
そして、素直に質問する。
「ヨハンさん、今の技はなんですか!?」
「あ、えーとね、|Ätherkristallkugelっていうんだ」
「え? テル栗田来る・クーデレ?」
「エーテルクリスタルクーゲル! 日本語で言うと、霊素結晶弾って感じかな」
「ほぇー」
「界、エーテルクルクルクーヘンはな、ドイツにおける妖術に近い技じゃな」
じいじが補足してくれる。
(なるほど……!)
「白神のお爺さま、エーテルクリスタルクーゲルです」
「ふぇ……?」
などと、やり取りしていると、
「それじゃあ、次は私が……」
今度は、雨が一歩前に出る。




