70.やってみる
界はヨハン指導の元、ドイツ式封魔術をやってみることにした。
「ズィーエ……でん、カール……でス、ウィッレンズ!……ゲ、ゲウェアレ、でぃあ、ゼルブストボスシュタニウン!」
「界くん、Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.だよ? “Keil”(楔)はカールじゃなくてカイルな。それに“Selbstbestimmung”は“ゼルプストベスティムング」
(……)
「ズィーエ……でん、カイル……デス、ヴィッレ……ン? ゲヴェー……レ、ディア……ゼルプス……トベ……ボス……シュ……シュタンディウム……っ!」
「シュタニウムじゃなくて、ベスティムング! Selbstbestimmung。“ベ・ス・ティ・ム・ング”」
「あ、はい……」
【わ、わけがわからぬ……】
(……流石のドウマ様も異国の言語に目を回しているのか?)
結論…………、
(ドイツ語、無理)
こうして、技術交流会の一日目は終わるのであった。
翌日――。
界、ヨハン、リーゼは再びじいじにより道場に集められていた。
「ヨハンくん、リーゼちゃん、昨晩はよく眠れたかな?」
「はい、おかげさまで」
ヨハンは爽やかに返事をする。
「それはよかった。それじゃあ、朝一発目、ヨハンくん、昨日の成果を見せてくれないか?」
「……! はい、よろこんで」
そうしてヨハンは一歩前に出る。
じいじが札を渡す。
「それではいきますね」
ヨハンはふうとひとつ息を吹くと、印を結び、詠唱を始める。
「沈めし印よ、今、ほどけよ。
縛りし手を引き、静かに門を開かん。
我が意思は干渉にあらず!」
「おぉーーー!」
札から霊魔が現れる。
成功だ。
「ヨハンさん、すご……!」
(たった一日で、日本式の解呪に成功しちゃったよ)
「ありがとう、界くん」
日本人のように謙遜しすぎる文化はないので、ヨハンは素直に称賛を受け入れる。
「うむ、ヴィンターシュタインの爺が随一の才能というのも頷けるな」
じいじはうんうんと頷いている。
そして、その流れで界に視線を向ける。
「で、界はどうだった?」
「え……、ちょっとうまくいってないです」
(ドイツ語長すぎ、発音わからなすぎ)
「うむ、そうか。まぁ、そんなものよな」
じいじはやはりうんうんと頷いている。
界自身も今まで習った術もそんなにすぐにできてきたわけではなかったため、こんなものかと思う。
(……そういえばリーゼはどうだったのかな?)
と界が思っていると、
「うむ、それじゃあ、昨日は封魔術についての技術交流を行った。あくまでも技術交流であって、必ずしも両方を覚える必要はないんだ。両者の差異などから、なにか気づきでもあれば、それが収穫だと思っている」
(確かに、結果として同じなら日本式とドイツ式の両方ができる必要はないよな)
「というわけで、今日は別の技術について交流していこうと思う。今日はじいじの他にもう一人、指導員を呼んでいるぞ」
(お……?)
「入ってきてください」
じいじがそう言うと、もう一人の指導員が道場に入ってくる。
(あ……、鏡美さんだ)
それは鏡美であった。
「よろしくお願いします。界さまの妖術・体術等の指導を担当させていただいております、鏡美でございます」
そう言って、ヨハンやリーゼに頭を下げる。
「知ってますよー」
ヨハンはそんな風に返す。確かに一緒にご飯を食べているから知っていないはずがない。
「うむ、鏡美さんは教えるのがとても上手い」
「滅相もございません」
「と本人は謙遜しているが、リーゼちゃんの指導に当たってもらおうと思っている」
「承知しました」
「それじゃあ、今日は両国の技について、技術交流をしていこうと思う。いきなりだが、リーゼちゃん」
「……! はい……」
自分に来ると思っていなかったのかリーゼは少し慌てた様子だ。
じいじは続ける。
「リーゼちゃんの守護霊体〝ホムンクルス〟を披露してくれないか?」




