68.ぽん
「それじゃあ、次、リーゼちゃん、お願いしてもいいかな?」
「……! は、はい……」
じいじに指名され、リーゼは油断していたのか、少し慌てた様子で返事をする。
「はい、リーゼ、これ」
そう言って、ヨハンはリーゼに石を渡す。
先ほどヨハンがヴォルフィを封印した瑪瑙だ。
「あ、ありがと……」
リーゼは、ヨハンがしたように、左手で石を持ち、ふうっと息をつき目をつむる。
「それじゃあ、いきます……!」
リーゼが勢いよく目を開く。
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)」
(おぉ……)
ヨハンの時と同様だ。
空に描かれた〝ᛗ〟の文字と共に、石に刻まれたᛗの文字が砕けるように消滅する。
「Zerschneide die Kette der 〝Bier〟!(ビールの鎖を断ち切れ)」
(ん……? ビール?)
〝ᚠ〟の文字が少々、戸惑うように、震えながらも一応、消滅する。
「Löse den Kreis der Ernte – lasse die Zeit erneut fließen!(報いの輪を解き、時を巡らせよ!)」
リーゼは勢いに任せて空に〝◇〟を描く。
が、石に刻まれた最後の文字は砕けることはない。
そして、しばらくすると、ᚠとᛗも復活する。
「…………」
「リーゼ…………BierじゃなくてGierな……。あと最後の文字は◇じゃなくてᛃな……」
リーゼは俯きながら、両手の拳を握りしめ、ぷるぷると震えている。
「ま、まぁ、リーゼちゃんはまだ六歳だから……」
その様子を見て、じいじが慌てたように、フォローする。
「そうそう……リーゼ、これからゆっくり学んでいけばな……」
ヨハンも続く。
しかし、
「ヨハンは……六歳の時、これ、できなかったの……?」
「えっ……」
ヨハンはギクリとする。
「え、えーと……その……できたけど……」
ヨハンはぼそりと答える。
「…………」
それを聞いたリーゼの目が潤み始める。
「あぁあ! リーゼ、ごめんな! 兄ちゃんが6歳どころか5歳の時にできちゃっててごめん……! ごめんな!」
ヨハンが一生懸命慰める。
(ヨハンさん、それは逆に、少し煽ってないかな?)
などと、界は苦笑いする。
「と、まぁ、リーゼは現在、修行中ということです。ドイツ式の封魔術は型が決まっているのだけど、一方で、厳格にそれを守る必要があってね。リーゼはそれが少し苦手みたいなんだ」
(……ドイツ式は型が決まっている……か。ってか、六歳でできないからって苦手扱いにされるのか……。結構、厳しいな……。それだけドイツ式は誰にでも扱えるように、体系化されているってことなのかな……)
などと界は思う。
当のリーゼは少しシュンとしてしまった。
「気を取り直して……。よし、じゃあ、次は界くんかな?」
ヨハンが界に視線を向ける。
「あ、はい……」
(やらなきゃか……。うー、なんだか緊張するなぁ)
などと思いつつも、界は自身の封魔術を披露する心づもりをする。
が、
「あ、すまん。界がやると色々問題があるから、日本式の見本については、じいじがやる」
(ふぇ……?)
じいじがそれを止め、前に出る。
「お、そうなのですね」
ヨハンは少し肩すかしをくらった様子だ。
界に問題があると聞き、リーゼは多少、気を取り直したようだ。
その後、じいじが日本式封魔術の解印と結印を披露した。
「おぉー、すごいですねぇ」
ヨハンはパチパチと拍手する。
「白神のおじい様、その札、お借りしても?」
ヨハンはじいじが見本に使用した霊魔が封印された札を指差す。
「ん? まぁ、構わんが……」
じいじはヨハンに札を渡す。
と、
「沈めし印よ、今、ほどけよ」
(え……?)
ヨハンが印を結び、詠唱を始める。
「縛りし手を引き、静かに門を開かん。
我が意思は干渉にあらず!」
(えぇええ!? まさか……)
「…………」
が、何も起きず。
「……うーん、残念。そんなにうまくはいかないか」
ヨハンは肩をすくめる。
「…………いや、かなり惜しかったぞ。印の調和が僅かに乱れたようだが……」
じいじがヨハンに言う。
「おぉー、そうでしたか」
ヨハンはにこりとする。
(すご……ヨハンさん、一度、見ただけで、じいじに惜しいと言わせるところまで……)
「うむ。それじゃあ、お互いに少し教え合ってみるかの」
(お……? ということは、俺もドイツ式をやってみるってこと?)




