67.ドイツ式封魔術
「早速、技術交流に入っていこう。ヨハンくん、まずはお願いしてもいいかの?」
「はい、お任せください。ドイツ式封魔術をご覧ください」
ヨハンはそう言うと、革のアタッシュケースを開ける。
(おっ……)
界が中を覗くと、アタッシュケースには、謎の石や瓶が詰められていた。
「それじゃあ……これにしようかな……」
ヨハンはその中から、石を取り出す。
それは、縞模様が美しい半透明な石であった。
(綺麗な石だな……)
と、界が不思議そうに眺めていると、ヨハンがそれに気づく。
「これは瑪瑙と呼ばれる石だよ」
「そ、そうなんですね。教えていただきありがとうございます」
「うん」
(それで、その瑪瑙を何に使うんだろう……。ん……? よく見ると何やら文字のようなものが刻まれてるな……)
と、界が思っていると、
「さて……、それじゃあ、この石に封印されている霊魔を解呪していくよ」
(……! つまり、この石が依代ってことか……)
界がそう思う間に、ヨハンは石を左手に持ち、深呼吸する。
そして、右手で空になにやら文字を描き始める。
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)」
空に描かれた〝ᛗ〟の文字と共に、石に刻まれたᛗの文字が砕けるように消滅する。
なおもヨハンは続ける。
「Zerschneide die Kette der Gier – befreie es(欲の鎖を断ち、解き放て)
Löse den Kreis der Ernte – lasse die Zeit erneut fließen.(報いの輪を解き、時を巡らせよ)」
すると、〝ᚠ〟、〝ᛃ〟の文字が砕けるように消滅する。
(なんだ、これ……、よくわからんが、かっこいいな)
最後のᛃが消滅した時、石から光が放たれ、霊魔の姿がゆっくりと浮かび上がる。
「ヴォオオオオ!」
(お……?)
中から出てきたのは、小型のオオカミのような霊魔であった。
ふわふわしており、青い瞳で尻尾が長い。
モフモフした見た目に反して、しっかりとこちらに威嚇している。
「この霊魔はヴォルフィっていうんだ」
(おぉー、これがドイツ産の霊魔か。なかなか良い毛並みをしている)
「うん、それじゃあ、ヴォルフィを封印するよ」
(……! どこかで見たことのある展開……)
と界がふんわり思う間にも、ヨハンは空に文字を描き始めている。
「Schließe den Kreis des Schicksals – nähe ihn hier und jetzt.(因果の輪を閉じ、今ここに縫いとめよ)
Mit der Kette der Gier sei es gebunden.(欲を縛りし鎖をもって、囚わん)
Mein Wille erkennt dein Sein und beansprucht es.(我が意志、汝の存在を認め支配す)」
今度は先ほどとは逆にᛃ→ᚠ→ᛗの順番で空に文字が発生する。
そして、それぞれの文字が石に刻まれ、
「ヴォオオオオーーーん」
ヴォルフィは石に吸い込まれていく。
(…………)
「す、すご……」
あっという間の出来事に、界は思わず、感嘆の言葉を漏らす。
「ありがとう、界。今のが、ドイツ式の封魔術の基本だよ」
「えーと、ヨハンさん、聞いてもいいですか?」
「もちろんだ」
「ドイツ式では、その……文字のようなものを使うのですか?」
「そうだね、ルーン文字だ。ドイツ式の封魔術ではルーンを組み合わせることで、霊魔を封印する」
「そうなのですね」
(日本式は手や身体の動き、〝結印〟を使うけど、ドイツ式は文字ってことか……。正直、ぱっと見だと分かりやすそうだな。ドイツ語はさっぱりわからないけども)
「ヨハンくん、すごいじゃないか。その年齢でここまで封魔術をこなすなんて……」
「いえいえ、白神のおじい様。僕なんて、まだまだです、爺さんには足元にも及びません」
ヨハンはそんな風に謙遜しながら、アタッシュケースを開く。
「見てください、ここに様々な霊魔が封印されているのです!」
ヨハンはところ狭しと敷き詰められた石や瓶を嬉しそうに見せる。
「中でも、これはすごいですよ」
そう言って、ヨハンは一本の瓶を見せる。
「これは、爺さんにより封印された超強力な霊魔〝グリム・アスシュナーベル〟が封印された瓶なんです。すごいですよね! すごいですよね!」
ヨハンは目を輝かせる。
それまでの冷静な感じと異なり、急にマニアックな雰囲気を醸し出し始めるヨハンに、
(この人、封印された霊魔のコレクターか何かかな?)
と界は思う。
(ってか、そんな物騒なもの持ってくるなよ……)
とも、ちょっと思う。
「うむ。ヴィンターシュタインの爺さんの腕は流石のものだ。それじゃあ、次、リーゼちゃん、お願いしてもいいかな?」
「……! は、はい……」
じいじに指名され、リーゼは油断していたのか、少し慌てた様子で返事をする。




