65.歓迎の食事
突然現れたドイツからのホームステイ。
兄のヨハンと妹のリーゼと共に、初めての夕飯である。
「それじゃあ、いただきます」
母の言葉で、皆が食事を始める。
食卓にいるのは、母、界、巡、ヨハン、リーゼ、そして鏡美である。
鏡美は、食事の準備のタイミングで来てくれたのだ。
というのも父は現在、修行で長い期間、家を空けている。
その間、母の補助として家事の手伝いをしてくれる人を探していた。
そこで、すかさず立候補したのが鏡美であったというわけだ。
鏡美は家庭教師のみならず侍女としての全般スキルを備えており、どれをとってもプロフェッショナルである。
実を言うと、鏡美は、界の修行相手としての自身に限界を感じ始めていた。そんなこともあり、そろそろ自主的に降板すべきではないかと真剣に悩んでいた。例えそうなっても、界と関わっていたいという思いがあった。とはいえ、そんな思いは、鏡美の胸の内にしまっているのである。
「今日はヨハンくんとリーゼちゃんの歓迎で、パーティという程ではないのだけど、ちょっぴり普段より豪華なご飯だよ」
確かに普段よりお肉系や揚げ物が多かったりと豪華であった。
「わぁー、ありがとうございます」
ヨハンは爽やかに喜ぶ。
「…………ありがとうございます」
リーゼもお礼を言う。
ただ、少し社交辞令感のあるお礼であった。
「ごはん たべる」
二語文を発することができるようになってきた巡もなんだか嬉しそうである。
「……真弓様……私もいてもよろしかったのでしょうか?」
鏡美は普段から一緒に食事はしているのだが、歓迎会というイベントに家族以外の自分がいてもいいのかと遠慮気味である。
「鏡美さん、いいに決まってますよ」
そう言って、母は微笑む。
(…………うっま……うっま……)
【うむ……美味いな……美味いぞ……】
界はマイペースに、母と鏡美の作った美味しいご飯をパクパクと食べていた。
と、
「あ、そうだ。界」
母が界に声を掛ける。
「ん……?」
「リーゼちゃんは界と同い年みたいよ」
「へぇ……」
そうなんだーと思いつつ、リーゼの方をちらっと見ると、
(ひっ……)
リーゼは界のことをキッと睨みつける。
(…………なんでや? なんか恨まれることしたかな?)
界は6歳の女子の精神年齢が男子のそれより遥かに高いことをあまり知らなかった。
要するに羞恥心が結構、発達している(個人差あり)。
と、
「リーゼ、ダメだろ、界くんにそんな態度しちゃ」
ヨハンがリーゼをたしなめる。
「…………はい、ごめんなさい」
ヨハンに注意され、リーゼは少ししゅんとしていた。
「あぁ、いいのよ。リーゼちゃん、あの件よね……。ごめんね、界がやらかしちゃって」
すかさず母がフォローする。
それでようやく界は、リーゼの裸を見てしまったことがまずかったのだと気が付く。
「…………うぅ……」
リーゼは少し恥ずかしそうに俯いた。
「きゃはは おにい やらかし おにい やらかし」
(変な言葉覚えないで、巡……!)
◇
その晩、就寝時間である。
ヨハンとリーゼは別の寝室が振り分けられ、兄妹で寝ることになった。
界は母と巡と一緒の部屋で眠る。
つまり、就寝時間についてはいつもと同じである。
界は狸寝入りしながら、
(「なぁ、ドウマ……」)
ドウマに話しかけていた。
【なんだ?】
(「ドウマは霊の審判者って知ってるの?」)
【知らぬなぁ。だがまぁ、異国の破魔師というわけだろ? 霊の審判者そのものは知らなかったが、異国の破魔師がいて、それぞれ多少、異なる文化を持っていること自体は知っている】
(「そうなんだね。ドウマって過去に依代の子の中にいた時の記憶は残ってるってこと?」)
【まぁ、そうだな……。その時に得た知識は残っているよ。ただ、依代の子そのものの記憶はあまり残っていないがな……】
(「……っ」)
【……どうかしたか?】
(「ううん…………なんでもないよ」)
そうして、その日は狸寝入りしているうちに眠ってしまった。
◇
「よぉし、界、ヨハンくん、リーゼちゃん、おはよう」
道場にて、じいじが少々、機嫌よさげに挨拶をする。
「おはようございます。白神様」
「……おはようございます」
ヨハンとリーゼがそれぞれ返事をする。
「よしよし、ヴィンターシュタイン家の爺さんから話は聞いているよな?」
「「はい」」
「それじゃあ、破魔師と霊の審判者の技術交流会を始めるぞ」




