64.ガイストリヒター
(「…………こんな霊魔もいるんだなぁ」)
【人間やぞ】
(「え……!?」)
ドウマの指摘に界は動揺する。
と、
ガチャリと音がして、洗い場から別の誰かが出てくる。
(……!)
「あ、あらっ、界……!? 帰ってたの!?」
(……か、母さん?)
洗い場から出てきたのは界の母であった。
もちろんすっぽんぽんだ。
母の身体はもちろん大人のそれである。
美人でスタイルもよいため、見る人が見れば良きものであろう。
しかし、界は流石に母親の身体には劣情を催すことがない程の理性は持ち合わせていた。
「リーゼちゃん、ご、ごめんなさい……! 早くお身体隠さないと……!」
母は慌てた様子で、少女の身体にバスタオルを巻く。
(リーゼちゃん……? ……母は名前を知っている? ま、まぁ、うちの風呂に入ってるんだから、そりゃそうか……)
と頭の中で考えても仕方がない。
「え……? ごめん……。母さん、その子は……?」
「え……、うーん……」
母さんは少し困ったような顔をした後、
「お義父さん、これじゃあ、サプライズじゃなくてアクシデントですよ……」
と、少しだけ愚痴るように零し、そして諦めたように語りだす。
「この子は、リーゼロッテ・ヴィンターシュタインちゃん」
(……なんて? 長くて一回じゃ覚えられん)
「ドイツから来た霊の審判者よ……」
「あ……うん……」
(……ドイツから来た部分だけは理解できたぞ)
「界、リーゼちゃん、とりあえず一度、服を着て、居間で話しましょう。風邪を引いてしまうといけないから」
「あ、うん……」「はい」
(……)
その時、界は初めてリーゼの声を聞いた。
とても可愛らしい声であったが、それよりも、
(…………日本語喋れるのかな?)
と、界は思うのであった。
その後、界はとりあえず着替えだけして、浴室から出て、居間へ向かう。
と、
「真弓さん、ありがとうございます」
(……!)
居間には見慣れないイケメンが一人。
身長は180くらいはある。
年齢は15くらいであろうか、リーゼと同じく色素の薄い髪で、高い鼻、堀の深い顔立ちをしている。
そんなイケメンに、
「ヨハンくん、巡のこと見ててくれてありがとうね」
母はそんな風に声を掛ける。
(……ヨハンくん? どうやら母がリーゼをお風呂に入れている間、このイケメンが巡の様子を見ていてくれたようだな……。あと日本語ぺらぺらだな)
界がそんな風に思っていると、
「あれ? その子が界くんかな?」
イケメンことヨハンが界に視線を向ける。
「そうなの、この子が長男の界です」
そう言って、母が界を紹介する。
「あ、どうも初めまして、界です」
界はよくわからない状況ながら、自己紹介をする。
「ふむ、噂通り、しっかりとした子だ」
そう言って、ヨハンがニコリとする。
「あ、ごめんね、界。このお兄さんはヨハン・ヴィンターシュタインくん、リーゼちゃんのお兄さんよ」
「よろしく」
紹介されたヨハンがウインクする。
「それで母さん、これってどういう状況なの?」
「あ、うん……えーと……彼ら二人はドイツから来た霊の審判者。日本でいう破魔師よ」
「うん」
「二人はしばらく日本で訓練するために、うちにホームステイすることになってるから」
(えぇっ!? ……本当すか)
「ず、随分と急だね……」
「う、うん……実際に急に決まったというのもあるのだけど、お義父さん……つまり、じいじが界を驚かせてやろうって言って、黙っておいてって……」
「そ、そうなんだ……」
(じいじ……、義理の娘に負荷かけ過ぎないようにな……。それにしてもなぜ急に……)
などと、界が思っていると、
「実はね、うち……つまりヴィンターシュタイン家のじいさんと、白神家のおじい様は古い友人のようでね。今回、二人の間でなにやら話が進んだようなんだ」
兄のヨハンがナイスなタイミングで今回の話の背景を教えてくれる。
「じいさんからは、霊魔大国日本の破魔の技術を学んで来いと言われているよ」
「そ、そういうことなんですね」
(…………霊魔大国日本とは……?)
「というわけなんで、よろしくね! 界くん!」
ヨハンは爽やかに微笑む。
「あ、はい……」
などと、苦笑い気味に返事をする界はなにやら鋭い視線を感じる。
(…………ひっ)
ヨハンの横で、リーゼが界をキッと睨んでいた。




