62.封魔術使ってみた
龍の放った呪詛は界が展開した壁により進行を阻害されていた。
呪詛の被害を免れた熊燐はどこか呆然としていたが、それを傍から見ていた者達が声をあげる。
「な、なんということじゃ……」
「界様の魄術壁は呪詛にも効果があるということでしょうか」
じいじ、くまじいじがそれぞれ驚いている。
呪詛は霊魔の攻撃の中でも極めて厄介なものである。
呪詛を発動する個体自体がそれ程、多くはない。
だが、ひとたび発動してしまった場合、完全に無効化することは難しい。
そのため、基本的な対処法としては、
①発動前に消滅させる
②発動相手を間違わせる(傀儡等を使用し、錯覚させる)
③あまんじて受ける(霊魔のレベルにより症状や期間はさまざま)
の三つである。
①については、最も良い対処法であるのだが、言うは易く行うは難しである。
②も成功率は決して高くない。
つまるところ現実的には③がもっとも一般的な対処法というわけだ。(対処と呼べるかはわからないが)
これら三つは基本的な対処法である。
これらと異なる特殊な対処法として、存在するのが〝魄術〟である。
一部の魄術使いには、呪詛の誘導が得意な傀儡使いや呪詛を癒す(解呪する)ことができる術者がいる。
しかし、いずれも呪詛の対処に特化した術者であることが一般的である。
言ってしまえば、界のように、防衛のついでかつ壁を張るだけというお手軽さで呪詛を防げてしまうことは、
「ほぼチートやないか……」
じいじは半ば呆れ気味にそんなことを口にする。
(……ん? チート?)
そんなことはつゆ知らずの界は、呑気にじいじがカタカナ文字を使ったことの方を不思議に思う。
【田介の壁は物理的または直接的な攻撃以外も遮断できるというわけか……。ははっ、面白い! だが、この儂様が少しは認めているのだ。それくらい規格外でないとなぁ……】
ドウマがそんなことを言う。と、
(「え……?」)
何気なく放ったドウマの言葉に、ドウマにとっては存外に界は豆鉄砲をくらったように驚く。
【ん……? どうかしたか……?】
(「いや……、今、ドウマが……少しは認めてるって……」)
【……ん? はぁああ!?】
界の疑問にドウマは少々、焦ったような反応をする。
【そ、それが何か変であったか?】
(「いや……、そんな風に言ってもらえたの初めてだったから……その……嬉しくて……」)
【っっ……そ、そうであったか……?】
界の素直すぎる反応にドウマは憎まれ口を吐くこともしにくくなり、言葉を詰まらせる。
ドウマ的にはすでに認めている発言をしているつもりであった。
だから、「明確に言ったのは初めてだったかなぁ……」頭かきかき状態である。
そんな二人をよそに、
「じゃ、ジャァァァぁぁ」
最後の呪詛攻撃に失敗した龍は力を失い、魂の灯が消え去りそうになっていた。
だから、
「影の名を断ち、力の流れを塞ぐ。
ここに印を刻み、我が結界に縫い止めん。
汝が咆哮、いま鎮まりて封ぜられよ――封鎖!」
「ジャァァァぁぁ……!?」
「え……?」「なんと……?」「うにょ……?」
じいじとくまじいじと熊燐は驚く。
「え……? 界、そいつ封魔しちゃったの?」
じいじが界に尋ねる。
そう、界は龍を札に封印していた。
熊燐と同じように、霊魔を抑えつける伏印を控えめにした。
その分、大量の魔力を消費するらしいやり方で。
「え……? 違うの? これって封魔術の訓練でしょ?」
「あ、うん……そうなんだけど、その霊魔、君の熊燐に呪詛放った霊魔よ?」
(……言われてみると確かに……。でも……)
「封魔術、実戦で使ってみたかったし……」
(こういうのは実戦でしか身につかない何かがあると思う。実際、俺は大地震の脳内シミュレートをたくさんしていたのに、本番で想定外のことが起きて対処できなかったわけだしな)
「う、うむ……、確かにそうだな」
「界様……、幼いのになんという長期的な視点をお持ちで……」
(くまじいじ、ちょっと大袈裟だな……)
界は苦笑いする。
こうして、界の初めて封印術の実戦訓練は終了したのであった。




