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【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜  作者: 広路なゆる


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04.変わらないこと

「おぎゃあああ! おぎゃあああああ!」


 界は深夜にも関わらず、突如、覚醒し、泣き声をあげる。


「あぁ……界、おはよぉ……おっぱいが欲しいのね」


 そうして母は、眠たそうに目をこすりながら、乳を差し出す。


(美味いーーーー! 母さん、ごめん。でも…………美味いーーーー!)


 生まれてすぐの界は、昼夜関係なく、3時間くらいごとに目が覚めて、どうしようもなく母乳が飲みたくなった。


 それは何も界が特別だからではない。

 生後間もない赤ちゃんとはそういうものなのである。


 ただ、特別なことがあるとすれば……、


【おっしゃあ、腹が満たされた……! 今度こそ……!】


 授乳を受けるたびに乗っ取ろうとしてくる悪霊がいること。


(……させるか)


 そのたびに界は息を止める。


【あぁ……! またか……! 畜生が……!】


(はぁ……はぁ……なんとかなったか……)


 息を止めて、身体に力を入れると不思議とドウマの支配を(まぬが)れることができた。

 しかし、ドウマも授乳を受けるたびに力を強めていた。

 だから界も、油断していたらやられてしまうのではないかと、その都度、必死であった。


「…………ねぇ、あなた……やっぱり……この子……」


「あぁ……それに……回を重ねるごとに、少しずつ魔力の量が……」


 父と母はその様子を見るたびに顔を見合わせるのであった。


「真弓…………界はとんでもない子になるかもしれない……」


 そんな日々が三か月ほど続いた。


 三か月を過ぎると、次第に睡眠のリズムが整っていき、昼に起き、夜に寝る時間が増えていった。


 すると、界に、別の問題が生じる。



(…………暇である)



 この頃になると、覚醒している時間が日に10時間程はあった。


 しかし、身体は赤ちゃんのそれである。

 歩くことはおろか、ハイハイすらできない。できることは寝返りくらい。


 母もこの頃は、TVや動画といったものをほとんど利用しておらず、娯楽は絶望的であった。


 界にとって、この時期が一番、辛かったかもしれない。


 だが、それは、ドウマにとっても同じであった。


【おい、小僧……】


(……)


【聞こえてんだろ? 小僧……!】


(……)


【小僧…………このドウマ様を無視すんじゃねぇええ!】


(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)




 そしてある時は……、


【おい、小僧…………お前よ……実際のところ何がどうなってるんだ……?】


(「え……?」)


【お前…………赤子じゃないだろ?】


(……!)


【最初から分かっていた。このドウマ様が赤子の魂に抵抗されるはずがないことは……】


(「あぁ……まぁ……そうだな……」)


【本当か……!? ……ならば、お前は何者なのだ……?】


(「俺は……俺だよ……」)


(嘘はついてない……多分)


【あのなぁ……聞いてるのはそういうことじゃねえんだよぉおおお!!】


(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)




 そしてまたある時は……、


(「なぁ……ドウマってさ……」)


【な、なんだ……? 小僧の方から話し掛けてくるとは珍しいな……】


(「あーそうかもな……それでさ……ドウマってさ、何をそんなに恨んでるんだ……? 何か恨みがあるから呪いを生むんだろ?」)


【小僧……! このドウマ様のことを何一つ知らんのか!?】


(「え……? そうだけど……」)


【少しは歴史の勉強をしやがれぇええええ!!】


(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)


 会話をするたびに、なんだかんだ最後にはドウマの乗っ取りチャレンジがあり、大変ではあった。

 しかし、正直に言って、この時期、暇で暇で仕方なかった界にとって、ドウマがちょうどいい話し相手であった。


 ……それは、ドウマにとっても同じであった。


 ◇


「界、お誕生日、おめでとうーーーー!」


 界を抱きしめた母が嬉しそうに祝福の声をあげる。


「だぁ~(あ、どうも。……ちょっと気恥しいな)」


 界は無事に一歳の誕生日を迎えたのであった。

 一歳ともなると、しっかりと立つことができ、単語を発することができるようになる子も現れる。

 界はというと、すでにがっつり歩くことできるようになっていた。

 だが、言葉の方はまだ呂律(ろれつ)がまわらなく、上手く発音できていなかった。


 しかし、仕草などで、TVや動画を要求するくらいのことはできるようになっていた。


(あれから、もう一年も経ったのか……)


 界はふと、この不可思議な一年間のことを思い起こす。


 まずはこの世界のことだ。


 はっきりとしたことは未だわかっていないが、間違いないことがある。

 世界は大改変されていた。


 TVや動画からある程度の情報を入手できるようになったことで、世界についての理解が急激に進んだ。


 年代は界が生まれた2010年に戻っていた。

 一年が経過したので今は2011年だ。

 界の誕生日が4月3日であるため、正確には、2011年4月3日である。


 その上で、まずは前世と変わっていないことだ。


 一つ目は、生まれた場所が東京であること。

 二つ目は、家族構成だ。


(これ……そもそも前世って呼んじゃっていいのかな……。タイムリープ的な奴なのだろうか? まぁ、一度、死んだのは間違いないと思うし、わかりやすいから前世でいいか……)


「界くん、かわいいでちゅねー」


(うわ、父ちゃん、近すぎ……!)


 父や母は見た目や名前は変わっていなかった。

 しかし、境遇については著しく変わっていた。

 前世における普通のサラリーマンとOLではなく、〝破魔師〟の一族になっていたのだ。

 それもどうやら日本における破魔師の七大名家の一つに数えられているらしい。


(正直、前世でも白神っていう苗字は、苗字だけかっこよくて名前負けしている感じがしてたんだけど……こっちでは本当に名家という……)


 界は心の中で苦笑いする。


 それはそれとして、父と母が破魔師になっていた……ということ。

 つまるところ、それは、この世界に悪霊や魔物が普通に存在することを示していた。

 また、それらを総称して〝霊魔(れいま)〟と呼ぶこともわかってきた。


 実際にテレビのニュースなどにも霊魔による襲撃事件などが普通に取り上げられていた。

 一方で前世であったはずの自然災害が緩和されていたのだ。


 これが前世の日本との最も大きな相違点であった。


 だが、


「界……生まれて来てくれてありがとう……界はお母さんの宝物だよ……」


「真弓……俺は界が生まれてくるまで知らなかった。この世には、こんなにも失いたくないものがあるのだな……」


「…………本当にね……」


 例え、前世と何もかも変わってしまったとしても、きっと変わらないこともあった。

 前世の父ちゃんと母さんは俺が六歳の時に死んでしまった。

 だから大人になるまでに、すっかり忘れてしまっていた。


(…………親馬鹿だな)



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