21.ドウマさんすごい(語彙力)
(「なぁ、ドウマ……ちょっと折り入って頼みがあるのだが…………魔力貸して。返せないけど」)
【いいよー】
(「え……? い、いいの……!?」)
【うむ、構わない】
(「こ、こういっちゃなんですが……なんでいいんですか?」)
【なんだ? いらぬのか?】
(「あ、ごめん。そういうわけじゃ……」)
【……なぜ許可したか。そんなのは簡単だ】
(「……」)
【頼み方が誠実であったから】
(「……!」)
【頼み事であることを誤魔化さず、返せないことも誤魔化さず。当たり前のことだろう?】
(…………このドウマさん、時々、至極まともなことを言うから困る……)
「か、界くん……どうするかな?」
柔和系おじさん教官の栗田が界に確認する。
「あ、あい……やります!」
「お、そ、そうか……」
(「ドウマ……それじゃあ、ドウマの魔力の使用を一部、容認するから、好きにやってくれ……」)
【うむ】
(……よし、それじゃあ…………魔力の〝蛇口〟を一部、開放して……)
界は脳内イメージの中で、ドウマ魔力水が流れる蛇口を慎重にひねる。
ここまでなら、確実に乗っ取られることはないというところまで。
(……)
そうして、蛇口をひねっているうちに、界はふと思う。
(「……ごめんな、ドウマ……」)
【ん……? なにがだ?】
(「……その……まだ100%信用することができなくて……」)
界の心は、この蛇口を思いっきりひねってもいいのではないかと思える程に……。
【別に…………慎重な奴は嫌いではない。儂様がそうではなかったから】
(……!)
【さぁ、そろそろだろ?】
(「あ、うん……」)
【やるのは……炎術〝蛍火〟だ】
(「わかった」)
界は腕を前に出し、手の平を上に向ける。
そして、魔力の使用権をドウマに譲渡する。
「炎術〝蛍火〟」【炎術〝蛍火〟】
「「「「っ……」」」
その灯を見た四人は絶句する。
栗田、兵藤、雨、そして界だ。
「…………う、美しい……」
栗田は思わず、そう零し、頬には一筋の涙がつたっていた。
大袈裟ではなく、本当に涙していた。
ドウマの蛍火は、暗黒の炎。
炎は真球となり、静寂する。
風に揺らめくこともなく、まるで時が止まっているかのように、泰然と佇んでいた。
(……)
界もまたドウマの放つ暗黒の煌めきに、心を動かされた一人であった。
その時、界の頭の中に、魔力を通じて、ドウマの思念が流れ込んでくる。
ひたむきに修練に打ち込む様子がまるでドウマ視点の映像のようにインプットされる。
(どれだけ……。どれだけ…………研鑚したのだろうか……)
血の滲むような努力。技への敬意と執着心。
それは普段のドウマの悪態からは想像もつかないほどの誠実さであった。
(「ドウマ…………ドウマってそのやっぱりすごいんだね……」)
【はっ!? 急にどうした!?】
(「いや、すごいなって思って……すまん、語彙力なくて」)
【…………儂様から見れば、田介の方が…………あ、いや、なんでもない!】
(…………? たすけ……? ……あっ、界だから田介か……)
界は思う。
(一応、かいの漢字読みは知ってたんだな……)
そうして、ドウマのおかげで界はひとまず魔力制御の訓練を乗り越えた(?)のであった。
と、界は肩をちょいちょいと突かれる。
(ん……?)
振り返ると、それは雨であった。
「どうしたの? 雨さん」
「か、界くん……あの……もしよかったらだけど、私に修行つけてくれないかな?」
(ん……?? 私と修行しようの言い間違いかな……? でも……願ってもない。俺も今ちょうど、修行熱に火がついていたからね……!)
「是非、お願いします」
「よかった……。それじゃあ、界くん、自由時間に静寂の間で……」
「き、君達、それを勝手に決めるのは……!」
それを聞いていた兵藤が制止しようとするが、
【あ゛!?】
先ほどの蛍火とは打って変わって、ドウマは邪悪なオーラを垂れ流す。
「ひっ……、ど、どうぞ……」
(あ、やべ……、蛇口開放したままだった)
「あ、えーと、でもね……界くん……? それでも一応ね、管理下でやってもらわないと……」
栗田はかなり気が進まなそうであるが、しかし、寂護院教官としての役割を放棄するわけにもいかず、界にそう告げる。
(まぁ、それが仕事だし、しょうがないよな……)
「そ、それじゃあ、栗田先生、お願いしてもいいでしょうか? 栗田先生にとっても貴重な自由時間に恐縮ですが……」
「……先生!? は、はい、私でよければ是非に……!」
そうして、界は雨と栗田と修行できることになった。
次話、ドウマの魔力、使ってみた




