15.非常識
(つい雰囲気で〝壁〟(仮)です……とか言っちゃったけど、これって一体……)
界は無我夢中で炎を遮断する壁を出した。
だが、その正体について、実はよく分かっていなかった。
と、拘束されている鏡美が界に語りかける。
「界様…………それは恐らく……界様の魄術でございます」
「あ……やっぱりそうですよね……」
妖術も使っていない。
五大属性である風、炎、土、雷、水のどれにも該当しない。
となれば、魄術以外に思い当たる節がなかった。
(しかし……ほぼぶっつけ本番だったけど、うまくいってよかった……)
界は三人とも生存しているという現況にひとまずほっとする。
が……、
【あははは……! 壁だって……? 正気か……? なんだその地味すぎる能力……どう考えても脇役のそれじゃねえかよ……あはははは……!】
頭の中で爆笑している奴がいる。
(……)
「笑うなや……いいだろ地味でも……」
界は少しむすっとする。
(でも、魄術は一度発動すると型が固定されるらしい……壁は……確かにちょっと地味かもしれない……)
などと少しばかり不安になっていると、
「界様……」
(……?)
界に声をかけたのは鏡美だった。
「私はその魄術、素敵だと思います」
(……!)
「界様の誰かを守りたいという強い思いの形かと思います」
「……ありがとうございます。鏡美先生」
「…………私はもう先生などでは……」
「いえ、先生です」
「っ……!」
「鏡美先生、見ていてください。あなたに教わったことの成果を見せます」
「な、なにが成果だ……!? 魄術が使える程度で調子に乗るな! ガキとは実戦経験が違うのだ……! 炎術〝炎槍〟!」
赤池は貫通性の高い直線的な炎を界に向けて放つ。
が、界の光の壁は完全に炎を遮断する。
「っ……! だが、貴様のそれはただ守るだけだろ? 一瞬の隙をつき、直接攻撃を叩き込めばいいだけだ」
そう言うと赤池は界に向かって突進してくる。
【はは……あいつ、馬鹿だな……。壁が守るだけ? 少し考えればそうでないことは想像に難くない】
ドウマは嘲るように笑う。
その間にも赤池は界との距離を詰める。
そして、
「くらえ……くそガキが……!」
右腕を振り上げる。
その瞬間であった。
「はぎゃあ……!」
赤池は何もない空間に顔面から激突する。
「…………くっ……!」
赤池は動揺しつつも、本能的に界から距離を取ろうとする。
だが、
「ぐはっ……」
今度は後退しようとした方で空間に激突する。
「…………っっつ」
赤池は焦りの表情を浮かべながらまるで突然、檻に閉じ込められた虫のように四方八方に動き回る。
しかし、その都度、不可視の壁に激突する。
赤池はそこでようやく気づく。
彼がすでに光の壁で包囲されていることに。
と、界が一歩前進し、拳を振り上げる。
「ひぃい……」
赤池は腕で顔を隠すようにして、小さく悲鳴をあげる。
だが、
「わ、私をどうするつもりだ? こ、子供の言うことなど誰も信じない!」
(っ……)
一瞬、動きを止めた界の様子を見て、赤池は薄ら笑いを浮かべる。
「七代名家赤池家の当主である私に危害を加えたらどうなるだろうなぁ……?」
(……)
「ただでさえ、異端の悪憑の子である貴様は間違いなく危険分子とみなされ処分だ」
赤池は尚もまくし立てるように続ける。
「赤池家は日本だけでなく、世界的にも後ろ盾となる貴族がいる。さぁ、追い詰められているのはどちらかな?」
(……)
界が悔しさを押し殺すように拳を強く握るのを見て、赤池はにやりと口角をあげる。
「わかったな? 悪憑の子が私に危害を加えたならば、
常識的に考えて……
ぶへぇええ゛えええ!!
」
饒舌に語っていた赤池は顔面をぶん殴られて吹き飛ばされ、
「ぐぺっ」
変なうめき声をあげて、〝壁〟に激突し、崩れ落ちる。
そして、殴った本人は吐き捨てるように言う。
「常識的に考えて、五歳児が常識なんて知るか」
「か、界様……やってしまわれたのですね……」
鏡美は焦った様子であわあわしていた。
【あはははは! 小僧やりやがったな! 最高じゃないか! 雷の妖術による肉体強化は家庭教師との訓練で散々やってたからなぁ!】
鏡美とは対照的に頭の中の人は妙に嬉しそうであった。
【それにしても、まさかあのような状況でも儂様の力を拒むとはなぁ……なかなかに興味深……いや、別に知識欲を刺激する的な意味であって、讃えているわけではないぞ……!】
そして、当の界はと言うと、
「しまった……やっちまった…………」
ちょっと焦っていた。
(だけど…………やっちまったが、後悔はない)
【あとがき】
次話、界のさらなる常識外れが判明




