13.誕生日と妹
「界! 5歳のお誕生日おめでとうー!」
バースデーケーキを囲んで父と母が優しく微笑んでいる。
界は5歳となった。
鏡美との訓練を初めてから早いもので一年ほどが経過していた。
おかげで幼児ながら結構、身体がちょいバキになっていた。
この件について、界は身長が伸びなくなってしまうのではないかと少し不安になり、鏡美に尋ねた。
すると、鏡美は、幼少期に筋トレをすると身長が伸びにくくなるという噂には科学的に根拠がないと教えてくれた。
それはそれとして、破魔師は小柄でも不利になることはなく、むしろ的が小さく、俊敏である点は有利に働くということも教えてくれた。
その話を鏡美から聞いた界は、確かにメッ○やリヴァ○は小柄だけどめちゃ強だよな……と納得するのであった。
(しかし、五歳か……)
五歳ということは、前世で両親が亡くなる六歳まで、残すところ一年である。
正確には、界の誕生日は4月3日、そして両親の命日は4月14日頃であった。
(実際に運命の収束なんてものがあるのかはわからない。だけど、あと一年と少ししかない……訓練も緊張感をもって取り組まねば……)
界はひっそりと決意する。
と、
「界、欲しがっていた誕生日プレゼントだぞーー!」
そんな決意のことなど知らない父が嬉しそうに袋を取り出す。
「うわぁああ、ありがとうぅ」
界は極力、子供っぽい反応で喜ぶ。
「しかし、父は安心したぞ。界がWi○ Uなんていう子供らしいものを欲しがって」
「へへ……」
界は外面で照れ笑いし、内心苦笑いする。
(これでようやく…………自由にブラウジングができる)
そう。Wi○ UにはインターネットでWEBサイトを閲覧できるブラウジング機能がついているのだ。
界の狙いはそれであった。これで魔術関連の情報を自分で探せる。
正直言うと、ノートPCかタブレットの方がよかったのだが、5歳児の誕生日プレゼントとしては少々、無理がある。ゲーム機も厳しいかと思ったが、普段、一切、そういうものを欲しがらなかったのが功を奏したようだ。
(しかし、2015年ってまだswitc○発売してないのな……)
そんなどうでもいいことを思っていると、
【おい、なんだ!? このかっこよいカラクリは!? おい、小僧! 儂様にもやらせろ!】
(…………なんか妙にきゃっきゃしている奴がいるが放っておこう……)
と……、
「ふ、ふにゃああ! ふにゃぁあ!」
母の腕の中で眠っていたもう一人の人物が突然、目を覚ます。
「あら、巡、あなたもお兄ちゃんの誕生日のお祝いをしたいのかしら?」
母がそう言って、微笑む。
そう、彼女は巡。もうすぐ一歳になる界の妹である。
そんな巡の姿を見て、
(妹よ…………まだ可愛いではないか……)
界は目を細める。
まだという言葉がついたのには理由がある。
前世において、二人はそんなに仲良くなかったのだ。
巡は母に似て、とても美人に成長することを界は知っている。
しかし、〝雑魚兄貴クソ〟。
それが前世における界の呼び名であった。
(せめてクソ雑魚兄貴がよかった……)
クソ雑魚兄貴はまだギリギリ兄であるが、雑魚兄貴クソはクソの方がメインである。
そんな悲しい前世を思い起こす界は、
「巡……よしよし……」
泣いている巡のほっぺを優しく撫でる。
「ふにゃ……」
巡は不思議そうな顔をして泣き止む。
「界……! 優しいのね……!」
「界、お前は将来、女の子にモテモテだ!」
母と父はそんな界を大袈裟に褒める。
そんな両親を見て、界はふと思う。
(……父ちゃんと母さんを亡くしてさ、お互い未熟で、前世ではけっこう辛く当たっちゃったよな)
界は前世でほぼ絶縁状態であった妹との関係を少し悔やんでいた。
だから……、
(今世では、極限まで優しくしてやろう……)
そんな決意をするのであった。
ただ……どちらかと言えば、兄妹は喧嘩するのが普通である。
「そうだ! 界と巡が結婚すればいいんじゃないか! がはは!」
(…………何言ってんのこの父……)
界は父を白い目で見る。
「あらあら、パパは少し気が早いでちゅね」
母はそんなことを言いながら穏やかに微笑んでいる。
しかし、界が、この父と母の発言が必ずしも冗談ではなかったことを知るのは少し先である。
この世界に霊魔が普通に存在すること……以外にも変わっていることが少しあった。
「ふにゃぁあ」
そんなことを知ってか知らずか、巡は呑気にあくびをする。




