101.最速
グリム・アスシュナーベルは小型化し、非常に素早い速度で周囲を飛び回る。
まるで、「もう大技には当たりませんよ」と主張するように。
それを見て、界は息を呑み、思う。
(………………あれは……ちょうどいいサイズ感だなぁ……)
界がそんなことを思っている間にも、グリム・アスシュナーベルは速度を緩めることなく、界を撹乱するように不規則に飛び回る。
「な、なんてスピードだ……」
その速度に、ヨハンは思わず、本音が漏れる。
と、グリム・アスシュナーベルが突然、角度を変えて、界の方向に突進してくる。
「キィイイイイイ!」
が、しかし、界に到達するギリギリのところで、踵を返すような離れていく。
「え……?」
ヨハンは、グリム・アスシュナーベルの奇妙な動きを不思議に思う。
【は……、流石に阿保みたいに突っ込んではこないか】
界の頭の中で、ドウマが嘲る様に呟く。
この瞬間、界はシンプルに自分の周囲、四方八方を壁で囲っていたのだ。
もしもグリム・アスシュナーベルがその速度で壁に激突していたなら、ただでは済まなかっただろう。
「絶対防御……」
「え……?」
リーゼを治療しながら、じいじはポツリと呟く。
「実際問題……、仮にだ。あくまでも仮定の話だが、俺が界と対峙したとしてだ。あの防壁を展開されたら、さて……どう攻略したものかと思う。界の壁は未だ壊れたところを見たことがない。それでいて、全てを検証したわけではないという前提はあるが、物理的な攻撃以外も防ぐときた」
「っ……!」
ヨハンは絶句する。
それが歴戦の破魔師、白神元の言葉の重みであった。
【で、田介よ、確かにその状態なら、ほとんどの自分への攻撃は無力化できると思うが……】
(「……わかってるよ」)
自分の四方八方を塞いでしまっては、自分からの攻撃も限られてしまう。
少なくとも現時点では。
何より、
(「この壁は、引きこもり戦略をするための壁じゃない……!」)
界にとって、光の壁は、自分以外の誰かを守りたいという思いを具現化した魄術であった。
界は、自身の周囲の壁を解除する。
すると、グリム・アスシュナーベルは目ざとくそれを察知する。
依然として、不規則で高速な動きを維持しながら、周囲の瘴気を弾丸のような固形物に変形させる。
そして、あらゆる方向から界に向かって、弾丸を照射する。
「ギィイイイイ…………イ?」
しかし、その全てがやはり壁により進行を阻害される。
その壁は界の周囲に常駐しているわけではなく、界に向かってきた弾丸だけを防ぐようにその都度、出現した。
【ふん、あの鳥……スピードに自信があるようだが、流石に相手が悪かったな】
「ギィ……ギィ……」
【これが光属性という奴か……。忌々しいほどの魔力の移動速度だ……】
(……そうなのか?)
界は、まだまだ経験が浅い。
他の属性のことも深く理解しているわけでもないから、自属性である光属性の性質についての理解も十分とは言えない。
(ただ、まぁ、光ってのが、万物の中で最速ってのは聞いたことがある。相対性理論だっけな。アインシュタインの……。あ、アインシュタインってリーゼやヨハンと同じドイツの人だったよな……。ドイツ人ってすげぇ)
などと、本人は呑気に考えているが、実際のところ少なくとも界の手の届く範囲内において、界の魔力の移動速度は異常であり、実質的にその空間全てを魔力で満たしているのと同義であった。
(それはそれとして、これならさ、守りながら攻撃もできるよね)
「ギィ……ギィ……」
界は手の平を、グリム・アスシュナーベルへと向ける。




