第三章:目覚める血
契約の翌日、ジュリエナは牢獄から消えていた。
衛兵たちは騒然としたが、誰も彼女の行方を知らない。
実は、彼女は月の影を操る能力を得ていた。
夜の闇に溶け、月光を纏うことで、姿を消し、跳躍し、風のように移動できる。
そして、彼女は城を抜け、母の故郷──月の森へと向かった。
森の奥には、古の祠。
そこに刻まれた碑文には、こう書かれている。
月喰いの一族、人ならざる者と契約し、運命を喰らう者なり。
ジュリエナの母は、かつて月喰いの末裔だった。
だが、皇帝にその血を恐れられ、処刑された。
「……お母様……」
彼女の目から、涙がこぼれる。
だが、それは悲しみの涙ではない。
怒りと覚悟の涙だ。
「もう、誰にも操られない。私は、自分の物語を書く」
その夜、ジュリエナは再び獣と会う。
『花嫁よ、お前はまだ、契約の半分しか得ていない。完全な力を使うには、婚礼の儀が必要だ』
「婚礼……?」
『月の満ちる夜、お前と私が一つになる儀式。それにより、お前は月喰いの真の力を得る。だが、代償もある』
「何?」
『人間としての心の一部を、獣に捧げねばならぬ。感情の柔らかさ、優しさ、儚い愛……それらの多くを失う』
ジュリエナは、静かにうなずいた。
「構わない。優しくなんて、なりたくない。この世界は、優しい者を踏みつぶす。私は、強くなる。そして──正義を裁く」




